アメリカからの手紙

外国のあまり知り合いでもない知り合い(?)で
 有名な労働問題研究者の方から朝方、メールが届く。
 ニューヨークタイムズに載っていた日本の若年者に
 ついての記事の事実確認。
 
 彼によれば、記事には
 
 15歳から24歳の労働力
 に占める非正規雇用就業者の比率が45%に昨年
 達し、1988年の17.2%から大きく上昇、中高年齢層
 の2倍にも及んでいる。
 とあったという。
 記事そのものを確認してからとも思ったけれど、 
 報道が事実ならあんまりだと思ったので、修正を
 しておきたい。
 正確には、次のように書くべきだろう。
 
 15歳から24歳の被雇用者全体(役員を除く)に占める
 非正規雇用就業者の比率が45%に昨年(7月~9月平均)
 に達し、1988年2月の17.2%から大きく上昇、25~44歳層
 のおよそ1.6から1.7倍に及んでいる。
 上記の点は、
 http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/zuhyou/lt52.xls
 をみれば、すべて確認できる。
 45%という数字は、失業者や自営業を
 含む労働力全体に対する比率ではなく、
 役員を除く被雇用者に対する比率である。
 ちなみに2009年平均の15~24歳の労働力人口は
 573万人であり、それに対する同年の非正規雇用者数
 平均227万人の比率を求めるとすれば、39.6%になる。
 それより、この数字の説明として
 問題なのは、45%という数字には
 「在学中」の就業者を含んでいる
 ことに一切言及がない点だ。
 在学中のいわゆる「学生アルバイト」
 は約100万人と大規模である。それらの
 学生非正規雇用を除いてみると、
 15歳から24歳の雇用者全体に占める
 非正規雇用者の割合は、2010年秋平均で
 30.1%であり、45%よりも大きく下回る。
 それだけ、若年の非正規には学生アルバイト
 が多いのだ。
 さらに在学中を除けば、15~24歳の非正規割合は 
 25~34歳の26.1%、35~44歳の27.9%、45~54歳の
 30.3%と、それほど遜色のない数字だ。
 同じ数字がさかのぼれるのは、2000年8月
 であり(先の表にもある)、学生を除くと
 15歳から24歳の非正規雇用者割合は当時
 23.1%だった。その後2002年以降は、
 30%台前半で推移してきている。
 統計は説明の仕方によって、まだ
 着目する数字をどれにするかによって
 読者に全く異なる印象を与えることになる。
 事実を伝えることがいかにむずかしいことか。

大卒未内定問題の解決方法

 大学卒の就職内定率が、
 今年3月卒業予定者について
 過去最低の状況を記録している
 という。
 新卒内定は、例年だと2月から3月にかけて
 学校の就職部や公共機関(ハローワーク)
 を通じたものが、盛り返してくる。
 最終的な進路決定状況については
 今後の状況次第だ。
 それでも不況のたびに就職氷河期が
 叫ばれ、また企業の新卒優先という採用姿勢が
 趨勢的に弱まりつつあるなかで、今後も
 新規学卒者の就職見通しは決して明るくない。
 就職活動は、学生にとってはじめて社会と
 真正面から出会う場であって、活動を通じて
 大人になるという声も聞く。就職活動自体が 
 すぐれた教育機会の場だというのである。
 
 しかし、その主張は苦しみながらも無事就職先が 
 決まった人々にまつわるものであって、そうでない
 人々にとっては、学習の場どころか、絶望の場
 でしかない。その絶望が深く、働くことや自分自身に
 希望を失ってしまい、ニート状態化したり、不安定
 雇用を続けるしかなくなった人が大多数となるような
 状況では、現状をそのまま放置し続けることの
 社会的代償はあまりに大きい。
 だとすれば、深刻化する大卒未内定問題を
 打開する解決策はあるのだろうか。
 私が考える現実的な策が一つある。
 それは、
 職業安定法を改正し、
 大学ができる就職斡旋業務について、
 民間人材ビジネスへの委託を、
 解禁することである。
 その具体的なイメージはこうだ。
 
 大学は認可を受けている民間人材ビジネス会社
 と新卒予定者の就職斡旋についての契約を
 有料で結ぶ。斡旋を希望する大学生は
 大学に申し込むと、後に会社から
 担当者(カウンセラー)が個別に割り当てられる。
 学生と担当者は定期的に話し合いを継続し、
 自らの希望、そのための準備状況などについて
 綿密なすりあわせを行う。その際、担当者との
 話し合いのなかで希望の実現に足りない部分に
 ついて、資格取得や訓練、学習、インターンシップ
 などによって、学生期間中に適宜補っていく。
 大事なのは、希望と現実の、学生本人の納得のゆくまでの
 「すりあわせ」だ。
 そして、その「すりあわせ」にまつわる綿密な情報は、
 会社のなかで別途、求人開拓を行う営業担当者
 (コンサル部門)に伝達・共有される。その確かな
 個別情報をもって、コンサルは知己の会社などを廻る。
 そこで学生にとってふさわしいと思われる企業に対して
 「営業」を行う。学生のかわりにアピールしつつ、
 注文があれば御用聞きもする。そんな企業とコンサルの
 意見交換の情報は、カウンセラーを通じて、学生にも
 きめ細かく「フィードバック」される。
 これらの
 「すりあわせ」「営業」「フィードバック」
 を繰り返すなかで、最終的な合意を得ることで
 卒業までに内定を実現するのである。
 斡旋の委託料はあくまで成功報酬である。
 支払いは、学生が就職してから1年後であり、
 1年以内に離職したようなケースでは報酬は減額される。
 契約は、ただ内定を得るだけでなく、同時に定着を促進
 する斡旋でなければならない。
 このように、壮年層の転職支援や希望退職の
 中高年の再就職支援などに実績と経験を持つ
 人材ビジネスを活用して、新卒者の就職斡旋を
 行うことには、いくつかのメリットがある。
 第一に、求人と求職のマッチングに関する
 豊富なノウハウを新卒就職に活用できる。
 いくら会社のことを勉強しようにも、人生で
 初めての正式な就職活動に望む学生の個人的な
 努力には限界がある。学生に頑張りを求めるだけで
 解決するほど、現状は簡単ではない。
 第二に、大学間の不公平感を大きく緩和できる。
 就職斡旋のノウハウが未だ十分でない大学や 
 地方で地元に求人の少ない大学の学生の就職は
 どうしても不利だ。入学した大学の偏差値などに
 関係なく、多くの学生が民間の就職斡旋ノウハウを
 活用することができれば、特に就職に苦しむ学生の
 多い大学とその学生にとって、心強い援軍になる。
 第三に、学生にとって、貴重な大学生活の4年間に
 今よりも勉学などに専念する時間を確保できる。学生は
 エントリーシートや会社説明会などに無意味に
 膨大な時間を費やすこともない。リクルートスーツなど
 着ることもなく、定期的に信頼のおける個別の
 カウンセラーとの面談に集中すればよい。就職活動
 も、当面コンサルにまかせておけばよい。ただし最終
 段階の採用面接だけは、誰の助けも借りられない
 自分だけの大事な勝負だ。それは今も昔も変わらず、
 貴重な人生教育の場になる。
 
 このような大学の斡旋を民間委託することが可能になると
 どのような弊害が起こるだろうか。
 最も大きい弊害と考えられるのは、大学が委託料を支払う
 可能性がある分だけ、大学の入学金や授業料などが高騰
 することだろう。
 中高年の再就職支援が、一人当たり数十万円単位で行われ
 ている現在の相場を考えると、このような斡旋を導入する
 大学では、やはり入学金がそれ相応に値上がりすることが 
 予想される。そうなると経済力に限界がある家庭の若者は
 大学に進学する機会が制限されるという懸念も当然生まれる。
 そうなると斡旋解禁に併せて、大学生に対する奨学金制度
 の一層の充実整備は不可欠だ。
 ただ同時に考えられるのは、将来の氷河期世代とそうでない
 世代に無関係に、入学金が一律に設定されることのメリットも
 ある。すべての世代の学生に共通した保険料として入学金の一部を
 大学はプールし、特に就職が困難な世代の学生の就職活動に活用する
 ことを、すべての入学生に約束する。それは、不況期に卒業しなければ
 ならなくなった世代だけが特に就職の不利を被るという、日本固有の
 世代効果の不公平を事実上緩和する一助となる。
 また現状の日本を考えると、入学金が高騰したとしても
 それを負担するのは、若者本人ではなく、その親や、
 もっといえば年金などに余裕のある祖父母の世代である。
 喫緊の日本の課題は、まだ相対的に豊富である高齢者が
 抱える資金を、有効なかたちで若者のために振り向ける
 ことである。若者の就職斡旋のための制度を整備すること
 は事実上、高齢者から若者への資金環流にもつながるのだ。
 このような提案は、職安法を改正するまでもなく、
 すでに一部の大学では始まっているかもしれない。
 ノウハウのある民間人材会社から、有為な人材を
 就職部などにスカウトし、その人物のネットワークなどを
 フル稼働して、学生の就職を個別に斡旋し、内定に
 つなげている場合も多いかもしれない。
 教育社会学者の大島真夫氏の研究でも、就職活動晩期
 における大学就職部の斡旋は思いの他、効果的だという。 
 現在、就職活動に努力している学生は、遠慮なく大学の
 就職部などに相談することだ。
 このような提案を空論と批判する向きもあるだろう。
 しかし、若者の就職難を、本人たちの安定志向のせい 
 だと根拠なく決めつけるのではなく、構造問題だと
 考え、社会全体で支援していくためには、十分検討に
 値する策だと思う。
 

来年の予想(その1)

 2011年がどんな年になるのか
 想像もつかないけれど、
 一つきわめて高い可能性で
 生じそうなことがある。
 総務省統計局『労働力調査』
 によれば
 高度成長期の1961年以降、
 製造業の就業者総数はずっと
 景気の浮き沈みで変動しながらも
 ずっと1000万人を上回り続けた。
 それが50年ぶりに1000万人を
 来年は割り込む可能性が大だと
 思う。
 
 1992年のピークには1500万人を
 上回った日本の製造業就業者数は
 その3分の1以上をついに失うこと
 になる。
 今年盛んに国内総生産は日本が中国を
 下回ることが言われたが、個人的には
 なんだかこちらのほうがショックだ。
 
 戦後日本の経済成長の象徴であった
 「ものづくり」が一つの時代を終えるの
 だろうか。
 
 釜石もそうだったが、試行錯誤を経た上で
 また新しいかたちの「ものづくり」が復活
 することを期待している。

雇用創出の方向性

 2008年秋以降の
 いわゆるリーマン不況の下、
 きびしい雇用環境が続いている。
 
 そのようなむずかしい状況のなかでも
 新しい雇用機会をつくり出している
 (ジョブ・クリエイション)分野を調べて
 いる。
 人手不足が期待されてきた
 「医療・福祉」分野はほぼ堅調に雇用機会が
 創られている。2000年代初めと比べれば
 「金融・保険」分野も傷は比較的浅かったようだ。
 街を歩いているとお店の閉店も多いように思うが、
 「飲食店、宿泊業」は案外堅調だ。無論、こちらでは
 同時、雇用機会が失われるジョブ・ディストラクションも
 少なくないが。
 
 そのなかで雇用創出が思いの他、大きいのが
 「専門サービス業」だ。
 専門サービスには、多様な業種が含まれるが
 そのなかには、資格を必要とするものの他、
 アーティスティックな分野も含まれる。
 同じ専門でも、硬直的な専門は時代の変化に
 弱い。いっけん矛盾にきこえるかもしれないが
 大事なのは柔軟性のある専門サービスだ。 
 その他、製造業は全体に苦しいが、そのなかでも
 「その他の製造業」には雇用創出の兆しがみられる。
 つまりは、従来の範疇にとらわれない「ものづくり」に
 希望があるということだ。こちらも古い枠組みに対して
 柔軟性のある製造業ということかもしれない。
 サービスでありながら柔軟に専門的。
 製造でありながら従来にない分野。
 もっとくわしく調べてみる必要があるけれど、
 今後の国内の雇用創出の望ましい方向として、
 このあたりがが一つのカギを握っていると思う。
 
 

ありがとうございます。

 「希望のつくり方」にたくさんの感想を
 いただき、ありがとうございます。
 
 今回おもしろいなあと思ったのは
 よかったと言っていただける箇所が
 それぞれちがうところです。
 もちろん41頁の謎の写真が衝撃だった 
 というお便りはたくさんいただきましたが。
 またご感想などいただければ、今後の
 希望学の参考にさせていただきます。
 とりいそぎお礼まで。