以前、大学での授業用につくった資料(一部修正)です。
何かのお役に立てば幸いです。
玄田 有史
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不透明さを増す雇用情勢のなか、多くの国民が自分の雇用生活を、生涯にわたり守っていくための、具体的なポイントをすみやかに周知徹底すること、そしてそのための国民の目線に立った情報発信が、まず重要。
1.「3年くらいは、つづけてはたらけそうな会社をえらぶ」
*有期雇用は原則最長3年(派遣も3年まで働けることがある、特別な業務では期限なし、日雇い派遣など法的に規制するのも一案だが、そのリスクを自ら認知・回避することが重要)
*予想外のことで仕事を辞めなくてはならなくても一定期間働いた実績が意味を持つ(できればあまりに短い期間で転々としないほうがいい)
*どうしようもない理由がない限り、辞めないことが大事(辞める前に十分、上司、人事、組合などに相談する他、辞めるとしても、就職が決まってから辞職する「オン・ザ・ジョブ・サーチ(OJS)」をこころがける)
2.「『あなたはこれまでどんなしごとをしてきたのですか?』ときかれたときに、自分なりにこたえられるよう、日ごろからはたらく
*誰もが職を失うリスクがある時代、できるだけ日頃から、転職をしなければならなくなったときのことを想像して働くことが大切。この質問は転職で面接を受けるとき、もっとも重要な質問
*若年・中年フリーターも中高年再就職でも、この答えが再就職の決め手になることが多い
*大事なのは、上手でなくていい、短くていいから、自分の言葉で自分の経験(履歴書には書かれていない)を語ること
3.「しごとでトラブルにあったら、かならず『総合労働相談コーナー』へ」
*世の中には、残念ながら、違法な行為が存在することを自覚することが大切
*「一方的に辞めさせられた」「給料が払われない」「仕事でケガをしたのに費用が出ない」「最初の約束と違う」「職場でのいじめやハラスメント」等、働く上でトラブルに遭ったとき泣き寝入りしないため
*全国の都道府県に設置、電話相談も可能、裁判所、紛争解決機関とも連携
総合労働相談コーナーについては
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
4.なにかあったら『ハローワーク』『サポステ』『ジョブカフェ』など、しごとをタダでしょうかいしてくれたり、はなしをきいてくれるところにいく
*雇用保険に加入してなくても、誰でも利用できる
*就職先の紹介だけでなく、どうやれば面接を突破できるかなども助言してくれるので、自分に一番あった場所や人をみつかるまで、複数のところへいってみる
全国のサポステ(地域若者サポートステーション)については
http://www.ys-station.jp/
5.「できるだけ雇用保険に入れる会社をえらぶ」
*雇用保険に加入できるのは、「正社員」の他、短時間労働者でも①1週間の所定労働時間が20時間以上かつ②1年以上引き続きの雇用見込みがある場合(2008年時点)。よくわからない場合には、ハローワークや総合労働相談コーナーに遠慮なく相談する。
*求職者給付の他、一定期間保険に入れば、教育訓練給付(3年以上で10万円)など様々な社会保障制度の恩恵を受けやすい
*「保険に入ると手取りが減るんだけど・・・」と、加入義務があるのに違反にしようとする使用者側の誘惑がもしあっても、乗らないことが大事
6.「かぞくみんなではたらく」
*一人ひとりの給料が少なかったり、家族の誰かが思いがけず仕事を失ったときにも、お互いに助け合えるようにする
*どういう仕事をするか、これからの生活をどうするか、家族や身近な人たちと日頃からよく話し合う
*ただし、病気やケガの人、一般の高校生などは除く
7.「学校を中退しない、中退させない」
*中途退学経験者はニート状態になりやすいなど、中退は一般に就職に不利な現実がある
*ただし高校を中退しても、通信制や定時制などで高校卒業の資格を取ることもできる
8.「あきらめない」
*非正規、フリーター、失業者、ニートになっても、人生に絶望することはない
*自分だけ、家族だけではどうしようもないと感じても、自分たちを支援してくれる人たちが必ずいる(4に挙げた機関やNPOの他、自治体では紹介の窓口を持っているところも多い)
これらの前提として、何より
『働くことが困難な人の状況に対する国民的な理解』が必要
*働くことに苦しみをおぼえている人や、働きたくても働けなくて苦しい人が、どこにどのような表情をして生きているのか
*その事実を多くの人たちが理解し、それぞれ出来ることを行動すること
被保険者の条件
前回記載した内容について
雇用保険に詳しい知り合いから
ご指摘をいただきました。
2007年10月1日より、
「短時間労働者」のうち、
①1週間の所定労働時間が20時間以上
かつ
②1年以上引き続き雇用されることが見込まれること
の条件に適う場合、
「正社員等の通常の労働者」と区別なく
「一般被保険者」として取り扱われることになりました。
「30時間」という目安は制度上なくなったことになります。
そうなると問題は①ではあるが、②ではない、つまり
雇用の見込みが1年未満の場合に、雇用保険の被保険者
としての資格が得られないことにやはりなります。
派遣・請負に限らず、1年未満の雇用契約が広がる中
加入資格が現状のままでよいのか、やはり議論が必要かも
しれません(失業給付が満12ヶ月の加入を要するという(ただし
解雇・会社都合の場合は、加入が満6ヶ月以上)現制度も
同時に検討する必要があります)。
それにしても(言い訳?)、制度、わかりにくいなあ。
やはりわからないときには、専門の窓口に相談するのが
一番のようです。
ご指摘ありがとうございました。
保険と再分配
雇用危機に際して、
雇用保険の加入範囲を拡張することが
検討されていると新聞報道があった。
その方向には基本的に賛成だ。
同時に財源確保のためには、保険料の
引き下げどころか、引き上げ、特に不況期に
手厚くするシステムをつくることも重要に思う。
その上で、有期雇用者や学卒無業者等を含む
より多くに加入・給付対象を拡張する制度に
した場合の、課題は2つある。
第一に、単純に制度を導入したときに予想される
使用者および労働者の一部から生じる可能性の
あるモラルハザードを防止するシステムや体制を
いかに整備するか。
第二に、対象を拡大した場合、保険制度が
ほぼ共通した外生的リスクに直面する加入者同士の
相互扶助という保険原理から、リスクの低い加入者
からリスクの高い加入者への給付を通じた再分配
という制度という側面が事実上強まることになる。
それに対して、失業リスクの相対的に小さい
正社員などの加入者の合意・納得が得られるか。
より重要なのは、第二の論点だろう。
セーフティネットは、誰かが負担をしなければ手厚く
できない。正社員と非正社員との処遇格差を解消する
ために、正社員の賃金を下げることに合意を形成する
のは難しいだろう。だとすれば、あえて保険という原則
よりも再分配制度として保険制度を解釈・運用することも
一案だと思うのだが、どうだろうか。
ただ、その場合も、正社員全体の合意が得られるかどうか
である。
注):
現状でも、週30時間以上勤務している人であれば
雇用保険の加入資格はある。さらに週20時間以上30時間
未満でも1年以上の働く見込みがあれば、同じく加入資格は
ある。
それは有期雇用者であっても同じであって、派遣労働者
は、すべて雇用保険に加入できないかのような誤解を与える
報道には注意を要すると思う。
ただし、法律があることと、そのような法律が守られているか
どうかは別問題である。派遣会社によって厳格に法が遵守されている
かどうかは、監督すべきだろう。そこに行政の関与する余地は大きい。
センパイ・ホームレス
ビッグイシュー初の単行本
「世界一あたたかい人生相談」は
面白い。 人生相談といっても、
エライ人たちの↓(上)から目線の
お説教ではなく、現役のホームレスの
おっちゃんたちによる、フツウの人たちからの
フツウのマジメな相談への、お答えだ。
もともとは、ビッグイシューの企画が
好評を得て、書籍化の運びとなったそうだ。
http://www.bigissue.jp/backnumber/bn87.html
「本当は答える立場じゃない」といいつつ、
最後は、きっぱり、経験から語る。
「人が亡くなった時に笑ったらあかん」
「平凡に暮らすことが一番むずかしいんやで」
個人的には
「えなり似」がよかった。
枝元さんのレシピ写真とひとこともいい。
2月から本屋でも売るらしいが、
通常号とあわせて、街のビッグイシュー販売者さん
から購入できます。
問われているのは何か
雇用契約を突然解除された
有期雇用の労働者への住宅・生活支援が
民官挙げて行われている。仕事も住宅もない
まま年を越すことになる「ホームレス」の人たちは、
以前から数多くいた。そこへ新たなホームレス層
が加わった。
雇用対策として、ハローワークでの職業紹介の他
住宅相談対応も開始された。12月15日の初日だけで
57件の雇用促進住宅への入居が決定したそうだ。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1216-4.html
ホームレス対策も、2007年に行われた全国調査を踏まえて
新たな基本方針が策定されたそうだ。今回の新たな状況を
踏まえて方針を練り直すことも早急に考えるべきだろう。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/homeless.html
ホームレスや住居不定者への対応は、基本的には地方自治体
に委ねられているのかもしれないが、安心感のためには、
厚生労働省として「就業困難者住宅生活支援室」などを立ち上げて
個別的・持続的・包括的な窓口として対応をすべきなのかもしれない。
以前は10年以上前まで、労働省に出稼ぎ問題への対応窓口があった
はずだが、すでにそのような部局があるのなら、そこへの要員と予算の
拡充こそが必要なのだろう。
派遣・請負問題によって、派遣制度への不信感が高まっている。
今後の対応として、突然の契約解除に対するルールの
確立(非正規の安易な解雇を排除する)、違法行為への監督強化
およびトラブルに遭遇した方々への個別相談・対応の充実が喫緊に
求められていると思う。だが、ここまで契約の解除が住宅問題として
語られることは、言い換えれば、派遣や請負という制度が、なんらかの
理由で、本人が住宅を持てないか、住宅を持つ家族のもとでは
暮らせない方々への、事実上の住宅支援にもなっていたともいえるの
ではないだろうか。
だとすれば、今回の問題が問うているのは、非正規雇用者を守る
ための環境づくりと同時に、住宅問題を通じて明らかとなった日本
社会における「家族」の変容である。帰るべき家を持たない・持てない
人々。派遣や請負として働くことを余儀なくされている人々。そこには
深い関わりがあり、その連鎖の解決はけっして簡単ではない。誰で
あれ、家族に他者が介在することには限界があり、可能だとしても
十分な節度を持った配慮が必要とされる。
いずれにせよ、今後、問題がどの程度深刻化するかは、
景気や労働市場だけでなく、家族そのものをあり方が
大きな鍵を握っているように、私には感じられる。
派遣請負問題のなかでは、日系外国人にも焦点が当たっている。
日系外国人の多くは請負労働者として働いていることが多いという
統計もみたことがあり、今回の契約解除で多くが困難に直面している
のだろう。加えて気になるのは、日系外国人の方々の子どもたちの
ことだ。
学校に通えないなど、日本社会にもなじめず、日本にも、母国にも
アイデンティティを持てない子どもたちは、ただでさえ不安定な状況に
さらされやすく、今回の家族の危機のなかで、十分な心くばりが必要
だろう。おそらく、日系人の多い地域では、自治体やNPO,ボランティア
などの対応も進んでいると思うが、地域以外からも広い支援が必要に
なっていくのではないか。
深刻な雇用危機に家族としてどのように対応するかとなれば、
やはり仕事を失うリスクに対応するため、家族みんなで少しづつでも
働くことが大切なのだろう(ただし、それは現役の高校生もアルバイト
すべきだといっているのではない)。家族みんなで働き、結果として
社会のみんなで働き、支え合うことに踏み出すきっかけとなった
一年が2008年であれば、それはそれで多くの痛みを伴いながらも、
希望のための大切な一年だったと、将来言えるようになってほしいと
願わずにはいられない。
*
ゲンダラヂオは、基本的に、何の得るものもないラヂオ、読んでも
メッセージも解決策もないラヂオ、ダラダラしたラヂオをめざしている。
ただ、今回は労働問題を考えることで生活をさせてもらっている一人
として、何か書かないでいられない気持ちになり、思いつくままに
書いてみた。誤解や不適切な表現などあれば、どうかご容赦ください。
そういえば去年の年末もJILPT問題が起こり、多くのみなさんに
ご支援、ご協力をいただいた。年末には、ちょっと真面目になる
なにかがあるな。ちなみに真面目を、高校生くらいまで「まめんぼく」
って何だろうと思ってました。団塊の世代を「だんこんのせだい」と
思っていたKさんのことを私は笑えません。
来年は、ふたたびダラダラとしたラヂオに戻りたいと思っています。
来春4月には、シリーズ希望学が刊行されます。現在は最初の2巻の
ゲラ(原稿を本のページのかたちに組み込み直したもの)をみんなで
読み直しているところです。なかなか面白いシリーズになりそうです。
希望学に関心を持っていただいた方、どうぞご期待ください。
今年も、あまり真面目にアップしませんでしたが、来年も
おもしろ、おかしいことがあったときなど、意味もなく発作的に書いていきたいと
思います。よかったら、たまにおつきあいください。
気がつけば延べ20万件を超える方々に、お読みいただき、ご愛聴
心より感謝申し上げます。
よいお年を。
ゲンダ・ユージ