賃上げ

賃上げへの期待が
高まっている。
どんな国の
どんな時代でも
賃上げを実現するのは
そこでもっとも成長が
著しい産業だ。
成長する産業は
つねに人手不足気味であり
人手を確保するために
世間相場よりも賃金を率先して
上げていく。そのための原資も
確保されているものだ。
だとすれば、日本にとっての
成長産業は何か。
製造業ではない。
金融業でもない。
小売業でもない。
建設業でもない。
それはひとえに
医療・福祉業だ。
医療や福祉は着実に
就業者が増えているが
まだまだ人手が足りないままだ。
規制の影響などもあって
なかなかそこで働く人の賃金は
上がっていかない。
しかし今後ますます重要性の
高まる医療や福祉の現場で
働く人の給料が上がらないかぎり
日本全体の賃金は上がらない。
賃金が上がらなければ
デフレもおさまらない。
日銀の金融政策は
時間がかかるだろうが
いつかは物価を上昇気味には
するだろう。
しかし日銀に医療や福祉の
賃金を直接上げる力はまったくない。
物価が上がって、賃金が上がらなければ
労働者の生活はますます苦しくなる。
よろこぶのは、賃金据え置きのまま
物価の上昇で利益が得られる企業と
負債を物価上昇で軽減される資産家
だけだ。バブルは彼らにだけ利益になる。
医療や福祉の賃金を、利用者の
負担を過剰に高めないで、上げるには
さまざまな規制の緩和も必要だが
なんといっても現場で頑張っている人たちの
知恵を集め、それを制度の改善につなげて
いくしかない。
デフレを克服できるのは
日銀ではない。
それを可能にするのは
賃上げを実現するための
現場の知恵だけなのだ。

震災と雇用(3)

震災のときには働いていた人で
震災によって直接的な被害を受け、
仕事を離れなければならなくなった
人は、被災3県で
8.14万人にのぼっています。
速報によればそのうち2012年10月時点でも
仕事をしていない人が
3.36万人と
離職した人の41.3%が
仕事につけていない現状があります。
なかでも自営業だった人は
74.4%が仕事を再開できておらず
雇い人がいなかった自営業にいたっては
81.6%がいまだ無職の状態にあります。
雇われて働く人では
正社員だった人の無職割合が34.4%
なのに対し、
正社員でなかった人の無職割合は
38.7%と高くなっています。
男女別では、
男性の無職割合が34.3%だった一方、
女性で働いていた人の46.6%が仕事に
就けていないのです。
自営業、正社員以外、女性といった
もともと比較的不安定といわれることの
多い働き方をしていた人ほど、今も
働くことの困難に直面している。
震災と雇用のもう一つの側面です。

ケア・トゥーリズム

今週の週刊エコノミストに
ちょっと今まで書いたことが
ないようなことを
書いてみました。
前からすこしずつ考えて
いたもので、
電車に乗っているときに
ある程度
考えがまとまり、
せっかくの機会だということで
書いたものです。
ただ書き終わった段階で
PCが不全になり、結局
思い出しながら、もう一回
書きました。
意外とおぼえているものだな
と思いました。
またご感想などお聞かせください。

震災と雇用(2)

前回、被災地の人々が
ニート化しているわけではない
と述べた。
それは原発事故でたいへんな
思いをしている福島の人たちも
同じだ。
やはり20~59歳の無業者のうち、
働きたいとは思っているが求職活動
はしていない、もしくは
働きたいと思っていない人々の割合は
岩手が73.1%
宮城が71.0%
なのに対し、
福島は74.3%
である。
たしかに福島は若干高いけれども
明確な差ではない。全国平均に比べれば
まだ低いほうの部類に入っている。
男性無業者に限ってみても、
福島は57.0%であり、
岩手の56.5%、宮城の52.1%と比べて
それほどの差ではない。
原発事故による賠償金の問題が
福島の人たちの働く意欲や活動を
阻害しているのではないかという
指摘もある。
しかし統計をみるかぎり
福島の人たちだけが特段に働くことを
望んでいないとはいえないことがわかる。
給付や手当などがあって日々
パチンコなどで一日を持て余している
人が被災地にも少なくないという話も
聞くことがある。
しかし、そのような人たちがいた
としても、それが全体もそうであるように
決めつけることは妥当ではない。
特に異常事態や緊急事態では、
特異な状況があたかも全体的に
そうであるかのように流布する
ことがある。
情報が錯綜しているからだ。
統計は冷静に現実を見据えることの
大切さをあらためておしえてくれる。

震災と雇用(1)

昨日書いた
総務省統計局「就業構造基本調査」
の速報結果を見ている。
そのなかでまず印象的だったことが
いくつかある。
その一つが、
被災地の無業者が、
特にニート化しているわけでは「ない」
ということだ。
高齢者や学生、生徒の多くを除く
25歳から59歳の働きざかりの年齢に
ありながら仕事をふだんしていない
無業者に注目する
(調査された2012年10月時点)。
無業者は、
仕事につきたいと思い求職活動
をしている「求職型」、
仕事につきたいと思っているが
求職活動はしていない「非求職型」、
仕事につきたいと思っていない
「非希望型」に分類される。
このうち「非求職型」と「非希望型」
を加えたものが、いわゆる「ニート」
になる。
度重なる失業給付の延長などや、
さまざまな支援があるために、
被災者が仕事をしようとしていない
のではないか、という声もあるようだ。
はたして、それは事実なのか。
統計をみるかぎり、それは
事実ではない。
被災3県の25~59歳無業者のうち
非求職型は30.4%、非希望型は42.1%
合計のニート割合は72.5%と高くみえる。
しかし、前回調査の2007年の就業構造基本
調査から、全国の20~59歳無業者で同じ
計算をすると、
非求職型は27.6%、非希望型は48.0%
合計のニート割合は75.6%と
あまり変わらないか、むしろ被災3県のほうが
低いのだ。
そこでは、家事を切り盛りしていることの多い
女性割合の地域差の影響が出ているのでは
ないかという疑いを持つ人もいるだろう。
しかし男性に限ってみても、
被災3県のニート割合は54.9%であり。
全国(2007年)の55.7%よりも
低いくらいなのだ。
被災3県で働きたいという意欲が萎えている
わけでは、けっしてない。多くが働きたいと
いう思いを持っている。