雇用政策の現場に詳しい友人から
2000年代前半の雇用が深刻化した
時代に、もっとも有効だった対策に
ついて聞いたことがある。
それは、就職の紹介や相談の窓口
での、マン・ツー・マン、つまりは
個人対個人による支援ということだった
そうだ。
「今日から、私が○○さんの担当をさせて
いただきます。よろしければ就職が決まる
まで、責任をもってお付き合いさせて
いただきます」。
「これまでの経験からすると、もちろん
いろいろ個人差はありますが、まずは
3ヶ月を目安に、そのあいだに就職が
決まるようにやっていきましょう」。
仕事に就けない人に対して、
「ハローワークに行けばいい」といわれても
なかなか足は運ばない。けれど、
「そこには△△さんが、○○時にアナタのこと
を待っているから」という励ましは、チャレンジ
しようとする気持ちを、少なからず奮い立たせる。
そんな話をニート支援の現場に詳しい別の友人から
聞いたこともあった。
支援者を新規に確保するには、もちろん
それなりの人件費が発生する。ただ、
その費用に対する就職者実績は、結局は
一番高い。個別対応は、一気には数に
つながらないように思えるけれど、実は
その積み重ねがもっとも効果的なのだ。
そんな話を、今週が最後だった大学院での
授業でもした。いろいろ労働政策の話を
したけれど、個別支援の大切さの話は
なんとなくだけれど、学生の反応がとても
高かったように思う。
支援には金もかかるけれど、結局は人である。
そんな理解がもっと広がっていけばよいと
思う。
古くから雇用問題で苦しんできた他の先進国
でも、すぐれた対策のキーワードは
「個別的」「持続的」「包括的」である。
ちなみに授業では、雇用対策の究極の目標
としては、結局のところ、仕事がないことに
思い悩み、絶望し、自ら死を選ぶ人を出来る限り
減らすことではないか、という意見があった。
それは、一つの見識であると私も思う。
そのためにも、個別支援体制のいっそうの充実
と理解は欠かせない。
2009年1月
いよいよ、か。
雇用状況の急速な悪化が、
統計にも鮮明となってきた。
2008年12月の完全失業率が
発表された。季節調整済数値
は4.4パーセントで、過去最悪
だった2002年6月、8月、2003年4月
の5.5パーセントよりは、依然として
低い。
ただし、対前月増0.5パーセント増は
明らかに異常な数値である。1970年代
前半の石油危機、1985年後の円高不況、
そして90年代以降の失われた10年でも
ひと月で0.5%も上昇した例はない。
就業者数も、一昨年の12月に比べて
65万人と驚異的な減少だ。うち47万人は
25歳から34歳の減少である。
失業率や就業率の他、非労働力率にも目を配る
必要がある。失業者は職を探している
が、非労働力は職探しを断念している
ケースも含まれ、ニート状態にある
若者や中高年など、より深刻な状況もある
からだ。
本日発表された労働力率の年次数値を
みると、まだ顕著な労働力率の低下は
みられない(ただし、4年ぶりに低下している
のも事実で、前年に比べて19万人減少)。
今後は、こちらにも目配りが重要になる
だろう。
決定のプロセス
前回、少し言及した労働政策審議会とは
厚生労働省のホームページによれば
「厚生労働大臣の諮問に応じて労働政策に関する
重要政策に関する重要事項を調査審議すること 」
「厚生労働大臣又は経済産業大臣の諮問に応じて
じん肺に関する予防、健康管理その他に関する重要事項を
調査審議すること」
とされている。
そのメンバーは、ウィキペディアにも出ているが
(ただ記載のメンバー情報はたぶんちょっと古い)
「労働者代表」「使用者代表」と 研究者や弁護士など
の「公益代表」から構成される。諸々の利害関係を
調整し、落としどころを探りながら、現実的に導入可能な
労働政策を実施的に決めてきた。委員は、それぞれの
立場を代表する見識者が揃っている。
さらに審議会の下には、複数の分科会・部会があり
職業安定、雇用保険、労働条件、障害者雇用、能力開発など
個別テーマごとに詳細な審議がなされている。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/#rousei
ただ、そのいずれについても、今後は
非正規、失業者、ホームレス、ニート状態にある無業者とその家族
を等支援するNPO等の団体の他、若年、学校関係者、さらには
60歳以上の高齢者なども、意思決定のプロセスに参加すべき
ではないだろうか。
何をもってそれぞれの代表と考えるか等
人選に難しい問題もあるだろう。テレビ出演など
「有名人」ということで選ばれるのは、ちょっと勘弁してほしいと
思う。なんといっても、自らの立場を責任をもって代弁すると
同時に、異なる立場に対しても、理解を示せる人であって
ほしい。代表者は、きわめて重い社会的責任がある。
けれど、正社員、雇用保険加入者、企業
のみを擁護し、それぞれの既得権の維持に努めているといった
批判など、若年、非正規、無業者などの当事者が直接政策決定
のプロセスで発言する機会が与えられていない事実がある限り、
避けることができないようにも思う(批判は常につきものだけれど)。
そんな私でも気づきそうなことは、既に然るべき方々が
検討されているのだろうけれど。
最も有効な雇用創出対策
以前、雇用危機を克服するのに
有益な雇用創出対策は、現実には
なかなか難しいということを書いた。
介護、環境、農業など、今後の国民生活
が向上するために、成長が期待される分野での
就業拡大が期待されるのは、よくわかる。
それが可能であれば、それに超したことはないと
思う。しかし実際の問題として、それらの分野で
今後懸念される、雇用機会を失った多数の人々を
すべて吸収するというのは、現実的には難しい。
だとすれば、量的に雇用機会の拡大を可能にする方策は
まったくないのだろうか。
○
実際には、雇用機会の拡大にきわめて効果的な手法であり、
通常あまり指摘されていないものが、一つだけである。
しかも、公共投資など新たな大規模な財政出動を
必要としないものである。
それは、持続的な雇用創出の実績を有する事業所や企業を
個別に見つけ出し、それらに対して集中的・包括的な支援を
実施することで、更なる雇用創出を促進することである。
現在の雇用危機も、すべての企業から満遍なく一律に雇用が
失われているわけではない。危機下でも雇用を維持したり、
ときには拡大さえしている企業もある。反対に好況期でも
すべての企業が同様に雇用を拡大しているわけではない。
デービス、ハルティワンガーといった雇用創出に関する
有力な研究者も、雇用が全体的に拡大している場合でも、
それに貢献しているのは、実際のところ、一部の企業群に
集中していることを指摘する。
先ほど述べたような特定の業種を念頭においた支援策は、
量的な雇用拡大が難しいのみならず、支援策としての政策
評価した場合、有効性が失われつつある。同一の業種内で
あっても、持続的に成長を続ける企業もあれば、衰退する
企業もあり、多様性やばらつきが大きくなっており、業種
を対象とした支援だけでは、助成措置などはうまくいかなく
なっている。
新たな雇用を生み出すのは、すでに認知された
業種ではなく、統計的には未だ把握されていないため、
「その他」に分類されるしかないグループでもある。
雇用創出の決め手は、業種や企業規模などから、
もっと個別企業の固有の要因にいっそうシフトしつつある
ことは、2004年に『ジョブ・クリエイション』という
本を書いた際に、指摘したことでもある。
だとすれば、重要なのは、不況下でも成長性を保ち、着実に雇用を
創出する実績を持つ企業を客観的に選び出し、そこに集中的な支援を行う
ことである。成長性を失った企業に対し、雇用維持のための支援を
続けたとしても、それは新たな雇用創出につながる可能性は(ゼロでは
ないにしても)、きわめて低く、政策効果を重んじる立場からすれば、
その評価としては望ましいものとはいえないことになる。
反対に、雇用創出力を潜在的に持つ企業に対して、
集中的に、法人税減税、資金調達優遇、出店や開業などに対する規制の
優先的緩和、社会保障手続などの簡素化、能力開発・採用などに伴う
積極的助成などを総合的に行うことで、雇用創出の実現性を高めることが
可能になる。金銭的な支援でなくとも、成長や雇用創出に支障となる要因を
できる限りなくすだけでも、大きな効果を持つ。
○
では、どうすれば、不況下での雇用創出力を失っていない企業を見つけ出す
ことができるのだろうか。不況下でも、利益を確保している企業としては
すぐに「ユニクロ」などが挙げられるが、それは「ユニクロ」だけでは
ない。むしろ、そのような持続的成長性の高い企業は、必ずしも有名ではない
中小企業に多い。その特徴としては、人材育成に対して積極的な姿勢を
崩していないなどの傾向があることなども、先の『ジョブ・クリエイション』では
あわせて指摘した。
だが、人材育成の姿勢など、人を大切にする姿勢は、なかなか一般の統計などから
把握するのは、難しい。持続的な雇用創出実績のある企業や事業所を、
客観的な統計から把握する方法はないのだろうか。それがあれば、そこから
選定された企業に対して、集中的・限定的に支援を行うことで、結局のところ
経済全体での大規模な量的雇用拡大につながる最も有効な方策となる。
持続的な雇用創出の実績を持つ事業所を客観的に選定する方策がある。
「労働保険年度更新等申告書」という、労働保険に加入している事業所が
すべて提出する義務を持つ報告書がある。今年は7月に年度更新の提出が
義務づけられており、労務の実務担当者であれば、誰もが知っている、
個別事業所ごとにその情報が過去何十年分も政府に蓄積されているはずの
報告書である。
報告書には、確定および概算の保険料算定内訳、期別納付額などに加えて、
その算定の下となる、年度内月平均での常時使用労働者数、雇用保険被保険者数、
免除対象高年齢労働者数などが、毎年記載されている。それを都道府県別に管轄
されている事業所コードで照会することで、個別事業所ごとの雇用者数の変動を
確実に把握できる。そこから、過去に違法行為、税や保険料の未納などがない
といった、一定の基準に基づきつつ、雇用創出実績を持つ事業所を選び出すことは、
可能なのである。
尚、本年4月から新統計法が施行され、業務報告を含む政府統計を公共の目的に
資するために、より積極的に活用することが制度的にも可能となった。
労働保険に関する報告書などを、雇用創出策のために有効活用することなどは、
まさに、その新統計法の精神を発揮する絶好の好機なのである。
さらに企業選出をより正確に行うには、個別の企業の活動や雇用の状況を知るために、
労働保険記録だけでなく、雇用保険業務統計や税務統計なども活用し、総合的
に判断すれば、より望ましい。
業種などにかかわらず、持続的な雇用創出の実績を持つ企業や事業所を、
労働保険記録などから客観的に選出し、そこに対して集中的・包括的な
支援し、成長の妨げとなる要因を個別に取り除いていくこと。それが
最も効果的な唯一の雇用創出対策である。
○
だが、あらかじめ予言するが、このような量的雇用拡大に
最も効果的な雇用政策が、実際に採用されることは、まずない。
雇用創出力を持つ企業は、イヤな言い方をあえてすれば、
「勝ち組」である。先の集中的な政策は、「勝ち組企業にもっと勝たせる
政策であり、負け組企業を見放す政策だ」という批判を浴びることは
必至である。国会やマスコミはもちろん、中長期的な労働政策を
実施的に審議する労働政策審議会であっても、そのような政策は
議論すらされないだろう。
何もしなくても、統計的には、雇用状況はいつか必ず改善する。現在の
ように予想以上の思いがけない状況の変化に対しては、大規模な雇用喪失が
発生する。だが、その後、状況の悪化の継続がある程度、予想されるように
なれば、予め雇用も控えめになるため、新規の雇用消失は抑えられることに
なるからだ。
雇用の状況は、新しい雇用を生み出す力(ジョブ・クリエイション(JC))と
雇用を失う力(ジョブ・ディストラクション(JD))のバランスによって決定
される。100人の雇用に対し、JCが3、JDが8なら、差し引き5人分の
雇用が純減する。それがJDは3のまま、JDが深刻な8から6にわずかでは
減れば、純減は3にまで減少し、少なくとも統計上は雇用の「改善」となる
からである。それは2002年から数年間の雇用「回復」のプロセスそのもの
でもある。
だが、それでは中長期的な解決には何らならないのも事実である。
重要なのはJCの3を、安定的により大きな水準まで引き上げることである。
そうでなければ持続的な成長とそれに伴う国民生活の安定的な向上は
今後とも望めない。
そのための方策として最も有効なのは、一部に対する集中的な支援だ。
だが、それは永遠に採用されることのない、幻の雇用創出対策である。
どえす。
連休中、近所のCさんから大量に借りた
「あ、安部礼司」のこれまでの放送分を
聞き続けている。ちなみにCさんには
RCの「シングルマン」と「ラプソディ]を
貸してあげたのどえす。
正直、「あ、安部礼司」はワンクールで
ぜったい終わると思ってました。
すんまそん。ああ、ははは。