問われているのは何か

 雇用契約を突然解除された
 有期雇用の労働者への住宅・生活支援が
 民官挙げて行われている。仕事も住宅もない 
 まま年を越すことになる「ホームレス」の人たちは、
 以前から数多くいた。そこへ新たなホームレス層
 が加わった。
 雇用対策として、ハローワークでの職業紹介の他
 住宅相談対応も開始された。12月15日の初日だけで
 57件の雇用促進住宅への入居が決定したそうだ。
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1216-4.html
 ホームレス対策も、2007年に行われた全国調査を踏まえて
 新たな基本方針が策定されたそうだ。今回の新たな状況を
 踏まえて方針を練り直すことも早急に考えるべきだろう。
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/homeless.html
 ホームレスや住居不定者への対応は、基本的には地方自治体
 に委ねられているのかもしれないが、安心感のためには、
 厚生労働省として「就業困難者住宅生活支援室」などを立ち上げて
 個別的・持続的・包括的な窓口として対応をすべきなのかもしれない。
 以前は10年以上前まで、労働省に出稼ぎ問題への対応窓口があった
 はずだが、すでにそのような部局があるのなら、そこへの要員と予算の
 拡充こそが必要なのだろう。
 
 派遣・請負問題によって、派遣制度への不信感が高まっている。
 今後の対応として、突然の契約解除に対するルールの
 確立(非正規の安易な解雇を排除する)、違法行為への監督強化
 およびトラブルに遭遇した方々への個別相談・対応の充実が喫緊に
 求められていると思う。だが、ここまで契約の解除が住宅問題として
 語られることは、言い換えれば、派遣や請負という制度が、なんらかの
 理由で、本人が住宅を持てないか、住宅を持つ家族のもとでは
 暮らせない方々への、事実上の住宅支援にもなっていたともいえるの
 ではないだろうか。
 だとすれば、今回の問題が問うているのは、非正規雇用者を守る
 ための環境づくりと同時に、住宅問題を通じて明らかとなった日本
 社会における「家族」の変容である。帰るべき家を持たない・持てない
 人々。派遣や請負として働くことを余儀なくされている人々。そこには 
 深い関わりがあり、その連鎖の解決はけっして簡単ではない。誰で
 あれ、家族に他者が介在することには限界があり、可能だとしても
 十分な節度を持った配慮が必要とされる。
 いずれにせよ、今後、問題がどの程度深刻化するかは、
 景気や労働市場だけでなく、家族そのものをあり方が
 大きな鍵を握っているように、私には感じられる。
 派遣請負問題のなかでは、日系外国人にも焦点が当たっている。
 日系外国人の多くは請負労働者として働いていることが多いという
 統計もみたことがあり、今回の契約解除で多くが困難に直面している
 のだろう。加えて気になるのは、日系外国人の方々の子どもたちの
 ことだ。
 学校に通えないなど、日本社会にもなじめず、日本にも、母国にも
 アイデンティティを持てない子どもたちは、ただでさえ不安定な状況に
 さらされやすく、今回の家族の危機のなかで、十分な心くばりが必要
 だろう。おそらく、日系人の多い地域では、自治体やNPO,ボランティア
 などの対応も進んでいると思うが、地域以外からも広い支援が必要に
 なっていくのではないか。
 深刻な雇用危機に家族としてどのように対応するかとなれば、
 やはり仕事を失うリスクに対応するため、家族みんなで少しづつでも
 働くことが大切なのだろう(ただし、それは現役の高校生もアルバイト
 すべきだといっているのではない)。家族みんなで働き、結果として
 社会のみんなで働き、支え合うことに踏み出すきっかけとなった
 一年が2008年であれば、それはそれで多くの痛みを伴いながらも、
 希望のための大切な一年だったと、将来言えるようになってほしいと
 願わずにはいられない。
 *
 ゲンダラヂオは、基本的に、何の得るものもないラヂオ、読んでも
 メッセージも解決策もないラヂオ、ダラダラしたラヂオをめざしている。
 ただ、今回は労働問題を考えることで生活をさせてもらっている一人
 として、何か書かないでいられない気持ちになり、思いつくままに
 書いてみた。誤解や不適切な表現などあれば、どうかご容赦ください。
 そういえば去年の年末もJILPT問題が起こり、多くのみなさんに
 ご支援、ご協力をいただいた。年末には、ちょっと真面目になる
 なにかがあるな。ちなみに真面目を、高校生くらいまで「まめんぼく」
 って何だろうと思ってました。団塊の世代を「だんこんのせだい」と
 思っていたKさんのことを私は笑えません。
 来年は、ふたたびダラダラとしたラヂオに戻りたいと思っています。
 来春4月には、シリーズ希望学が刊行されます。現在は最初の2巻の
 ゲラ(原稿を本のページのかたちに組み込み直したもの)をみんなで
 読み直しているところです。なかなか面白いシリーズになりそうです。
 希望学に関心を持っていただいた方、どうぞご期待ください。
 
 今年も、あまり真面目にアップしませんでしたが、来年も
 おもしろ、おかしいことがあったときなど、意味もなく発作的に書いていきたいと
 思います。よかったら、たまにおつきあいください。
 気がつけば延べ20万件を超える方々に、お読みいただき、ご愛聴
 心より感謝申し上げます。
 よいお年を。
 ゲンダ・ユージ

雇用創出のために

 雇用対策のうち、最も期待が高いのは 
 なんといっても新しい雇用機会の創出
 だろう。
 オバマ次期米国大統領の公約は
 たしか250万人の雇用創出だ。もし
 実現がまったくもって不可能だったとき、
 待っているのは、すさまじい失望感と反感
 だ。ただ、オバマさん、なんとなく「運」を
 持っているような気がするのだけれど、
 どうなのだろう。
 日本でも100万人規模の雇用創出など 
 打ち上げられれば、それは素晴らしいだろう。
 なかでも今後の持続的成長と国民生活のために、
 分野として、環境、自然、介護、医療、福祉、観光
 農業あたりで、雇用創出に期待したいといった
 識者のコメントが多いように思う。
 「そのためにみんなで知恵を出し合うべきだ」とも。
 誰が知恵を出すのかな。私も、それらの分野で雇用が
 今回の危機を契機に自然に拡大していく道筋が
 できれば、それはそれで素晴らしいと思う。
 たとえば、先日、いつもお世話になっている歯医者
 さんの待合室で見かけた『山と渓谷』(通称やまけい)に
 荒廃する森林保全の就業を広げる
 「緑の雇用プロジェクト」の広告が出ていた。
 http://www.ringyou.net/
 
 このプロジェクトについて、私はまったく存じ上げない
 し、労働条件などわからないけれど、この際、とにかく
 チャレンジしてみるのも一つかもしれない。そこでみんなで
 取り組んでみて、運用などに問題があれば、地道に改善していくしかない
 のではないか。多分、農業や介護など、人材不足がずっと指摘されて
 きた分野では、同様な公的支援は、調べてみれば多分あると思う。
 これらの重要分野に、まったく対策がなされていなかった
 わけではなく、景気も一時的によかったことなどで、
 あまり注目されてこなかったという面もあるのだ
 (ただしそれらをすべて足し合わせてもすぐに100万人には
 ならないだろうが)。
 ただ、一方で、私自身、雇用創出にどのような分野が
 決め手になるかと、仮に誰かに訊かれれば、
 あまり景気や調子の良い話ができないのが、
 正直なところだ。
 京都大学の照山博司さんや慶應義塾大学の太田聰一さん
 などと、長年続けている「雇用創出研究」からは、1997年頃
 までは、バブル崩壊後の不況期でも、中小企業や建設業の
 なかに(無論すべてではないが)、雇用を新たに創り出す一群が
 みられていた。それが、1998年の日本の金融不況以後
 雇用をひっぱる部門がまったく見えなくなってしまっている。
 ではなぜ2002年以降、雇用が回復したのか。雇用の回復には
 雇用の新たな拡大が強まるか、雇用の減少に歯止めがかかる
 かのどちらかしかない。2002年頃に不良債権処理の迅速化など
 の影響を受けて、希望退職が大企業などで集中した。その際に
 雇用のマイナス調整が大規模かつ集中し、その後調整は収束
 していった。そのプロセスが、統計的に雇用の回復につながった。
 プラスの絶対値が増えなくても、マイナスの絶対値が小さくなれば、
 全体として雇用機会は純増ということになる。一種の統計による
 マジックである。
 それらの雇用創出研究のなかで、我々にとっても新しい
 発見だったのは、日本では存続を続けている事業所での
 雇用の拡大や縮小以外に、事業所そのものの開業や廃業に
 よる雇用の創出や消失が、雇用全体の変化を大きく左右している
 可能性だった。事業所の開業や廃業には、当然、会社の新設
 や倒産もあるし、企業内の不採算部門の閉鎖や新規事業による
 開設などもある。1998年と2002年は、「失われた10年」のなかでも
 雇用の削減が特に著しかった特筆すべき年だが、それらの年には
 事業所の開廃の影響が、特に大きかったという我々の試算もある。
 9月の米国発の金融不況以前から、企業の倒産ペースが強まって
 おり、2000年代半ばからの景気回復期でさえ、新規の事業所開設
 による雇用創出力は必ずしも強まっていなかったのかもしれない。
 だとすれば、持続性や成長性のある健全な事業所が
 資金調達の困難から廃業となったり、同じく潜在的に発展性の
 期待される事業所の開業が資金が工面できず創業が困難となる 
 状況が続けば、雇用面で影響の大きい開廃効果は深刻さを
 増すことになる。
 直接的な創業支援策は、これまでもあまり十分な成果を挙げて
 こなかったというのが、個人的な印象ではあるのだけれど、資金調達の
 困難による開廃業の影響が甚大とすれば、今回の雇用危機にとって 
 健全な企業や事業所をつぶさないで済むための金融政策がきわめて 
 重要ということになると、私は思う。
 
 

安易を排する

以前に書いたように
期間の定めのある有期雇用であっても
やむを得ない事由がない限り、
契約期間満了前に解雇することは
できない。そのことは本年3月より施行された
労働契約法第17条により明確に定められている。
またやむを得ず解雇を行う場合であっても
少なくとも30日前までの予告が必要なことも
労働基準法第20条により定められている。
それらは当然、現下の派遣問題についても
あてはまる。ただし、厳密に解雇が問題となるのは
派遣「先」ではなく、一義的にはあくまで派遣労働者と
雇用契約関係にある派遣「元」、すなわち派遣会社である
ことには留意しなければならないだろう。
雇用関係のない派遣先については、あくまで派遣元と
企業間の民事契約を結んでいるのであって、そこに雇用対策
として介入することには、自ずと限界があるだろう(ただし
1999年に出された労働省告示第138号により、派遣先についても
専ら派遣先に起因する事由により派遣契約を契約期間の満了前に
解除を行おうとする場合には、関連会社での就職を斡旋する等
派遣労働者の新たな就業先を確保することが求められている)。
したがって、重要なのは、派遣会社が「やむを得ない事由」を
過大に拡大解釈して、「なんでもかんでもやむを得ない事由」として
安易に解雇を行わないことである。
その場合、何をもって「安易」と考えるかであるが、ひとまず
重要な判断基準は、整理解雇の効力を判断する法理である4要件
であろう。解雇権濫用法理として労働法の教科書には必ず登場する
4要件とは
① 人員削減の必要性
② 解雇回避努力を尽くしたかどうか
③ 解雇対象者の人選基準とその適用の合理性
④ 労働者側との協議などの手続の妥当性
である。
それらの4要件はすべて、雇用期間の定めのない正規雇用者
のみならず、有期雇用の非正規雇用者にも、厳格に適用されるべき
だろう。したがって派遣会社がやむを得ず解雇を行う場合には、
立証責任を負うと同時に、新たな就業先の確保など最大限の努力義務が
課されることになる。
今後は、これらの要件を踏まえて、派遣労働者を
含む非正規労働者の解雇は、けっして安易になされてはならないという
社会的な規範を確立していくことが急務である。
ただし、そのような主張に対しては、すぐさま使用者側および
経済学者からの批判を予想することもできる。
派遣などの非正規の解雇を困難にすることは、
今回のような予想外の景気悪化に伴う企業側の雇用調整コストを
高めることになる。それはグローバル化の進むなかでの企業の
国際競争力を弱めることにつながるというものである。さらには
非正規の調整コストが高まることは、柔軟な労働力としての非正規の
魅力を弱め、非正規雇用そのものの労働需要(求人)を抑制することに
つながるという意見も当然考えられよう。
解雇権濫用法理などの規範が、どの程度、日本の労働市場の雇用調整に
影響を与えているのかは、それ自体、すぐれて労働経済学の実証研究課題
である。今後も、それについての地道な研究の蓄積が必要であり、
労働経済学者の出番である。
ただし、解雇を安易に行わない規範の成立には、経済社会全体における
メリットも考えられる。
日本の雇用システムに関する近未来的課題のうち、最も重要なのは、
雇用形態にかかわらず、すべての人々が生涯にわたり成長を実現する
ことを可能にする社会づくりである。それは正社員に限らず、むしろ
非正規が雇用者の3分の1を占め、今後もさらに増加が見込まれる状況
では、非正規雇用者にこそ持続的な能力開発の機会が確保されなければ
ならない。
非正規の能力開発の向上は、非正規本人の就業状況を改善するに
とどまらず、経済全体の生産性を向上させ、同時に正規雇用者との処遇差の
解消に向けて、避けては通れない課題である。
では、どうすれば非正規雇用者の能力開発に向けた環境づくりは進んで
いくのだろうか。その際、非正規雇用者本人の自助努力だけでは限界が
ある。フリーターを含む非正規雇用者、さらにはニート状態の
無業者を生み出す背景には、教育機会や家庭環境などを含む貧困問題も
影を落としている。
能力開発にとってなんといっても効果的なのは、
やはり職場における働きながらの継続的な訓練機会の確保、
オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)
である。
企業にとって特殊な技能を形成することが
必ずしも求められない非正規雇用者の能力開発
にとって、企業が自然発生的にOJTを積極化する
経済合理性はない。
唯一、使用者は「安易に解雇をしない(できない)」、
労働者も「安易に離職をしない」という
相互理解と相互信頼が成立することで、
はじめて安定的かつ継続的な職場での
訓練可能性は生まれる。
非正規の解雇を慎重にする規範の形成は
非正規の職場における能力開発は進める後押しとなる。
そのような環境づくりのためには
将来的に有期雇用契約の期間を
どこまで拡大することが妥当と考えられるか、
その見直しと合意形成も重要になるだろう。
非正規だからといって安易に解雇はできない、
非正規も社会的に大切に守られなければならない
という社会的規範づくりとその普及定着が
これからの雇用社会には不可欠である。

木を見て森を見ず

 11月の完全失業率が発表になった。
 率にして3.9パーセント(季節調整値)、
 人数は256万人にのぼっている。
 完全失業者には、仕事を探すことを 
 断念している無業者は含まれない。また
 住所が不定の無業者も調査は実際難しい 
 だろう。その意味で仕事がないことの実際は
 数字以上に深刻な可能性もある。
 ただ、その一方で、現在の労働力統計が 
 整備されて以来、完全失業者数が最多
 であったのは、不良債権処理が急がれ、
 希望退職が増加、新卒採用も氷河期の
 真っ只中にあった、2002年3月の379万人
 である。直近よりも120万人(原数)以上多い。
 完全失業率のこれまでで最も高かったのは
 2003年3月の5.5パーセント(季節調整値)
 である。
 雇用が深刻化していることは間違いない。
 今後情勢がすぐさま改善するという予想も
 立てにくい。だが、少なからず、現段階までの
 議論には 「つくられた雇用パニック」の部分も
 あるかもしれない。
 重要なのは、一つの角度だけで一喜一憂するので
 なく、広く事実を見極めようとすることに思う。 

知ること

 不本意ながら仕事を失った人にとってすれば
 何より新しい仕事の確保が重要になる。
 ハローワークなど、ドンドン利用すべきだろう。
 
 ハローワークも雇用保険の加入にかかわらず
 誰でも無料で利用できる。そこではパソコンを使って
 求人情報がみられる(インターネットからも利用可能)。
 パソコンが苦手な人には個別に対面で相談にも乗ってくれる。
 またもっときめ細かく仕事や働き方について相談に
 乗ってほしい場合には、現在全国で77箇所ある(島根だけない)
 「地域若者サポートステーション(サポステ)」を利用する手もある。
 http://www.ys-station.jp/saposute/index.html
 
 現在、おおむね35歳程度までが対象なのだが、
 中高年がたずねていっても追いかえされたりは
 しない。行政もこの際、年齢の上限を解除することを
 決めてはどうか。
 ある県の若者相談窓口をのぞいたときのことだ。 
 そこに就職を決め、無事「卒業」していった若者による 
 寄せ書きがあった。そこに多く記されていたのは
 「あきらめないで」という言葉だった。
 あきらめないためには、あきらめないですむための
 方法を知らなければならない。
 それにしても気になるのは、それらの現在ある取り組みが
 どのくらい知られているのか、ということだ。
 今年春に私自身が行った調査によると、独身の非正社員の
 うち、ほとんどはハローワークの存在を知っていた。それに
 対して、昨日書いた総合労働相談コーナーの存在を知っていた
 のは10パーセント程度、サポステにいたっては、7パーセントにも
 満たなかった。
 知らなければ利用のしようもない。
 まずは困っている人たちに知ってもらうことではないか。
 いよいよ明日26日朝8時30分、11月の完全失業率が
 発表になる。