3月末に起こったこと

  花粉症でぼっーとしているうちに
 なんとなく4月に突入してしまった。
 待てよ、そういえば、3月末は派遣など
 非正規の雇い止めが集中していたんじゃなかったけ。
 
 急いで厚生労働省が3月に速報した非正規雇用者の
 雇い止め等の状況を確認する。
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0331-2.html
 やっぱり3月は、昨年12月に次いで、雇い止めは集中している。
 調査当時に把握されていなかったものを含めれば実際には
 3月の雇い止めはもっと多かったのではないだろうか。
 でも、報道ぶりは、昨年12月に比べれば圧倒的に少なかったように
 思う。日比谷公園での派遣村のような象徴的な出来事が3月末には
 なかったからなのか。それともあったにせよ、視聴者が飽きてしまい、
 もう報道価値がないと、メディアにみなされてしまったのか。
 株価もいつの間にか9,000円目前、為替レートも緩やかに円安方向に
 進んでいる。エコノミストの予測としては今年後半には在庫調整も
 一段落し、景気は底を打つというのが、多いようだ。
 
 ただ、だからといって、雇用問題が解決したわけでもなんでもない。
 ゲンダ個人としては目下の研究テーマは2000年代の深刻な雇用情勢と 
 その回復過程を今一度正確に記録することだが、2008年末からのかつて
 ない急速な雇用悪化についても、その理由を解明する必要があるだろう。
 
 変化が激しいと、すぐ過去を忘れてしまう。
 過去を忘却することは、希望を忘却することにつながる。
 

働くって

 「働く意味って何ですか」。
 その質問を受けるたびに、いつも
 ムニャムニャとお茶を濁してきた気が
 する。「わかりません」とか「いろいろ
 あるんじゃないの」とか。
 個人的には
 「はい、ひと仕事終えた後に、仲間と
 打ち上げをするのが、ボクの働く意味
 です」と、威勢よく答えるたびに、
 「まじめに聞くんじゃなかった」
 という顔が返ってきた。まじめに答えて 
 いたんだけれど。
 ただ、これだっていうスッキリな答えなど
 できない、しないほうがいいんじゃないかと
 なんとなく、考えていたのだ。
 それが4年間、希望学を続けてきた今、
 やっぱりそれでよかったんじゃないかと
 思っている。今、改めて、働く意味を
 たずねられれば、こんな風に答えそうな
 自分がいる。
 「働く意味は、いろいろあるだろうけど
 一つに決めつけないことが大事だと
 思うんです。いくつかの、どっちつかずの
 意味のあいだで、変化を求めて揺れ動き
 つつあることにこそ、意味といえば、
 意味があるんじゃないか」。
 今週発売の『希望を語る』に寄稿いただいた
 水町勇一郎氏の「労働信仰の魔法とそれを
 解く法-希望の意義と危険性」に触れて
 ますますその意を強くしている。
 

理想と現実

  大胆な意見や提案には、ときとして現実、さらに重要な
 こととして歴史的経緯を踏まえていないということで
 実現性に疑問が残る場合がある。
  ただし一方で、現実を熟知した上でなされる手堅い
 見解は、間違いこそないものの、現に存在する問題点 
 や課題を克服するエネルギーに欠け、必要以上に
 現実追認的になってしまうときがある。
  だとすれば、その両者の特質をできるだけ踏まえようと
 した上で、そのあるべき落としどころを探ることこそ
 重要なのだろう。そのためにも、両見解のあいだの
 対話こそが何より求められることになる。ただし、
 それを地道に続けていくことは、実にしんどいこと 
 でもある。
 ○
 
 以前、緊急対策として、都市部の主立った駅すべてに
 転落防止策を設置することが一案ではないかと書いた。
 http://www.genda-radio.com/2009/02/post_441.html
 正確な統計は公開されていないが、春先などの明るさを増す季節
 には人身事故などの不幸も増える。ちょうど自殺が夜明け前に多い
 とされるのと、よく似ている。
 
 ちょっと古くなるが、平成20年度の補正予算では「安全・安心な交通
 空間確保対策費・交通ネットワーク整備対策費」として794億円が
 計上されている。具体策として駅のバリアフリー化などが当時報道 
 されていたが、同時に転落による不幸な事故を少しでも減らすための
 対策としても活用してほしいと願いたくなる。
 ちょうど十年ほど前の不況期に、多くの駅で急速にエレベータや
 エスカレータが国などの補助によって設置された。当初それは
 高齢者や障害者のためのものとして意識されたが、実際には
 仕事につかれた多くの人にとっても便益となっている。
 私自身、電車が人身事故でストップして、仕事に遅れそうだと
 苛立ったことも少なからずある。だが、人身事故で交通がストップ
 することが、「またか」と怒りを込めて不満に思うことこそ、実は  
 異常なことなのではないかと思う感覚が、本当は必要なのだろう。
 
 死への畏れが失われることは、とてもおそろしいことだと思う。
 高校のときに、世界史の先生から「毎日、自分はいつか死ぬんだ
 と思って生きよ」といわれたことを、ふと思い出す。その意味を
 今、改めて考える。

変化は既に始まっている

  『ビジネス・レーバー・トレンド』の
 「非正規雇用をどう安定させるか」
 の特集に寄稿する。
 http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html
 非正規については短期の転職を促進する
 よりも、むしろ同じ職場に一定期間安定して
 継続雇用が出来て、その間に実績と能力開発を
 積むことが可能となる環境づくりが重要であることを
 改めて述べる。
 それを自分では「非正規の内部化」「非正規雇用の
 中長期化」と呼んでいるが、同じような内容は多くの
 研究者が指摘しつつある。以前、ある研究会で
 久本憲夫氏は、仕事が存続する限り、雇用が保障される
 新たな非正規を「準正規雇用」と呼んでいた。
 佐藤博樹氏は、職場や職種などの特定の「限定」を
 明確にした上で、期間を短期に限らない非正規雇用
 の追求を指摘している。人事の現場に詳しい研究者
 以外に、経済学者のなかでも大竹文雄氏や
 鶴光太郎氏など、有期雇用の期間延長に言及している 
 人たちもいる。
 私自身の表現は、こんな感じだ。
 「雇用形態を問わず求められているのは、能力開発に関する新たなシステムの構築である。本人のみが責任を持つ「自己責任型」でもなければ、他者に全部お任せの「他者依存型」でもない。労働者本人と企業、政府が相互に責任を果たし合う「協働型能力開発システム」である。」
 「能力開発の最終的な決定主体は、正規であれ、非正規であれ、あくまで労働者本人であるべきだ。ただ能力開発の実効性は、働く場を提供する企業の職場環境に大きく左右される。職場で提供される場が安定的であるほど、能力開発は効果的となる。」
 「本来、雇用契約には、労働サービスの取引という以外にも、能力開発の場の活用・提供という、労働者と企業の両者が相互に協働して提供しあう、複合的取引の意味合いが含まれる。労働者は企業との間で、労働サービスの対価として「賃金」を得る一方、場の提供に対する「レント(賃貸料)」を契約に応じて支払う関係にある。」
 「その契約は原則、労働者と企業の個別合意である。両当事者の合意があれば、期間の定められた契約が長期化することを妨げる理由はない。有期雇用を中長期化し、内部化を促すことは、非正規の安定化に直接的に寄与する。そのためにも現行の有期雇用上限3年(一部専門職等や満60歳以上は5年も可)という法規制を、まずは広く5年程度まで拡充する柔軟化が検討されるべきである。」
 ここでは、内部化に加えて、「協働型」の能力開発という
 キーワードを考えてみた。
 今月号の雑誌のなかで、個人的にとても目を引いたのが
 株式会社ロフトによる、非正規雇用の無期長期化の取り組み。
 「ロフト社員」とよばれる、当初は6ヶ月の有期契約で雇用契約後、
 訓練・人事考課を経た上で、週20時間から40時間の勤務範囲で
 無期雇用される社員を意味する。処遇は時間換算での正社員との同一
 労働・同一賃金、契約時間に影響されない昇格・昇進、リーダー以上
 には賞与もある。非正規雇用の内部化・中長期化の一つの進化形態
 である。
 ロフト社員制度の導入後、いくつかの目に見える変化もあったという。
 まず退職率は半減、反対に採用倍率は倍増するなど、制度導入の
 背景であった、契約・パート社員の離職率の高さと採用逼迫に対して
 明確な効果が現れている。また採用や離職だけでなく、長期勤続
 志望の増加やステップアップ志向、社員満足度も大きく上昇している
 という。
 危機感を持って地道に模索を続けている現場や企業にこそ、これからの
 働き方のヒントはある。