新卒者採用内定取り消し等の状況

昨日午後、
厚生労働省が取りまとめた
令和元年(2019年)度卒の新卒採用内定者の
取り消し状況が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/content/000672051.pdf

それによると
内定取り消しとなった学生・生徒数は
174名にのぼり、なかでも104名が
感染による影響と考えられるという。
事業所数では、内定取り消しは
76事業所にのぼるとされる。

内定取り消し者数は
未だ深刻な人手不足で新規求人の堅調だった
前年度には同調査で35人にとどまったため、
報道では昨年から5倍の増加という数字が
強調されている。

ただしそこには別の見方も考えられる。

近年もっとも内定取り消しが深刻だったのは
リーマンショックの影響が直撃した
平成20年(2008年)度卒であり、
その数は実に2143名、447事業所に及んだ。

その当時に比べると、内定取り消し者数は今回
12分の1程度であり、取り消し事業所数も
およそ6分の1程度にとどまったともいえる。

東日本大震災の際も内定取り消しが
598名、196事業所あったことと比べても
今回は取り消しは思いの外少なかったと
いえるのではないか。

また入職時期が繰り下げとなった学生・生徒も
当初1210名に達したが、8月末時点では1184名と
大部分が入職済みとなっている。

無論、取り消しにあったり、いまだ入職できない
新卒者に対しては万全の対策が求められるものの、
それでもかなりの事業所が内定取り消しを行わず、
雇用を確保しているというのが、現状の正当な
評価であるように思う。

だとすれば、その背景には何があったのだろうか。

今回早々に特例措置が行われた雇用調整助成金では
新卒内定者を含む雇用期間6ヶ月未満の労働者の休業も
助成の対象とされた。そのことは新卒者の雇用確保に
繋がった可能性がある。

またリーマンショックの際には、世界的な規模で
金融システムの崩壊すら懸念され、システムの
再構築には大がかりな見直しが求められるなど、
深刻な不況が比較的長期に続くという見通しは
強かったと思われる。
実際、就業者数の減少傾向は、
途中、東日本大震災を挟み、2012年一杯まで、
4年に渡って続くことになった。
(※ 正社員に限れば減少傾向は
2014年初頭まで続いた。)

それに対し、今回は感染症の一気の拡大は衝撃的だった
ものの、1、2年後にはワクチンや治療薬の開発も期待されるなど、
企業による先行き悪化の見通しは、比較的短期に限られた面も
大きかったのかもしれない。新卒の正社員採用などは、短期的な
見通しよりも、長期的な見通しにより強く左右されるため、
人口減少による慢性的な人手不足懸念も重なり、
取り消しを踏みとどまる企業努力につながった面もある。

さらにいえば、2010年代を通じて、企業による法令遵守の
コンプライアンス意識が浸透したことが、強く機能した
ことも考えられる。

新卒採用は、内定の時点で一般に労働契約が成立すると
判例でも考えられており、企業による一方的な理由による
取り消しは、法律上認められていない。取り消しには
合理的な理由が存在し、社会通念上も相当であることが
要求される。

もし著しく法律に違反した場合など、内定取り消しへの
対応が十分でない企業は、企業名が公表されることにもなっており、
実際今回も公表に至った取り消し企業もある。

SNSなどの発達もあり、内定取り消しは、今後の新卒学生にも
その情報が瞬時に伝わるなど、将来にわたって人材の確保を
難しくする懸念は、企業の人事部などは依然にもまして強く
抱くようになっているだろう。そう考えると、一時的に大規模な
業績悪化があったとしても、内部留保や新規借入を活用するなど
様々な手段を用いて、内定取り消しを阻止することは、
高い優先順位で取り組んでいることが予想される。

これらの他にも理由は考えられるであろうし、新規求人が
減少していることはまぎれもない事実のため、令和2年度卒
の学生は、内定を得るのがより困難な状況にさらされる可能性
も少なくない。その結果、就職活動そのものを諦め、ニート
状態に陥る若者が大量に発生しないよう、
ハローワーク、学校、地域サポートステーションの連携を
より緊密にするなど、十分な対策を今から講じておくことが
必要だろう。