東京大学社会科学研究所の岩手県釜石市を舞台とした釜石調査は、
2006年に当時の全所的プロジェクトだった
「希望学(希望の社会科学)」として開始された。
釜石市での調査は、2016~19年度の全所的プロジェクトである
危機対応学でも継続され、その成果が
東大社研・中村尚史・玄田有史編
『地域の危機・釜石の対応 多層化する構造』
として6月末に東京大学出版会より刊行される。
テーマこそ変わったが、今後いかなる危機が生じても、
それなりになんとかやれるという自負や手応えこそが
希望につながるという思いは、釜石調査で貫かれてきた。
希望学の調査では、地域の希望を再生する条件として、
三つの要素を示した。その要素とは
「ローカル・アイデンティティの再構築」
「地域内外のネットワークの形成」
「希望の共有」だった。さらに
この三要素を貫くキーワードが「対話」
であることも指摘した。
この仮説は、東日本大震災という未曽有の困難を経験した今もなお、
妥当性を失っていない。むしろ、過酷かつ刻々と変化する危機群には、
これらの要素とそれらを繋ぐ対話の重要性は、いっそう高まったのが実状だろう。
希望再生の対話を進め、危機対応の実践的な手がかりを獲得するため、
さらに踏み込んだヒントを見つけたい。釜石の調査と並行し、
地域の創造や再生に向けて特徴的な取り組みを実践する市や町を訪れ、
それぞれの背景にあるものを探してきた。
訪れたの地域では、数えきれないほどの魅力的なお話をうかがった。
困難に直面しながらもそれらと対峙し、チャレンジを続ける場所には、
きまってユニークな経験と語り口を持つ人々と、
もっと聞きたくなるような印象的な話がある。
それはこれまで全国の市町村を訪問するたびに感じてきたことではあったが、
今回改めて強く印象付けられた。
(続く)
東大社研・中村尚史・玄田有史編、東京大学出版会
『地域の危機・釜石の対応 多層化する構造』より
http://www.utp.or.jp/book/b508909.html