『地域の危機・釜石の対応(7)』

今回の釜石での
調査、イベント、ヒアリングなどを通じ、
実感したことがある。
それは釜石の地では、
危機への向き合い方とでもいうべきものが、
人々に脈々と受け継がれているということだ。

津波被害、艦砲射撃、公害問題、鉄鋼不況、
集団移転、漁業不振、事業閉鎖、病院問題、
山林被害、東日本大震災等など。
釜石には多種多様な危機に重ね重ね直面してきた歴史がある。
それらの歴史からの経験や教訓を踏まえた上で、
どんなことも軽視はせず、
かといって過度に深刻にもならず、
柔軟な姿勢を保持したかたちで
危機に今も対峙し続けている。

そのときの姿勢とは、
多層的に迫り来る危機を
丸ごと束にして受け止めながら、
小刻みにステップを踏むような動きを続けつつ、
時間をかけて押し返していくといったものだ。

一つずつ課題を即座に解決するには、
地域はいかにもコマが足りない。
反対に束にしてじっくり対処することで
相乗効果が見込めたりもする。
危機が多層ならば、対応も総合化させていく。
総合化がただの大風呂敷とならぬよう、
記憶の継承を含めたリアルな小ネタは欠かせない。

そんな一連の動きは、何度も訪れながら、
危機対応をテーマとしたことで、
初めて気づかされたことだった。
それが同時進行の危機への、
静学的なリスク管理とは異なる、
いかにも釜石らしい
ダイナミックな実践知としての対応なのだ。

はたしてその実践が今後どんな実を結ぶのか。
私たちはこれからも見続けていく。

読者には、本書の釜石の実例から、
多くの地域が直面する危機に対応する
ヒントを見出していただけると思う。

東大社研・中村尚史・玄田有史編、東京大学出版会
『地域の危機・釜石の対応 多層化する構造』より
http://www.utp.or.jp/book/b508909.html
2020年6月30日発売