2020年4月の労働市場(3)

感染症拡大による
全国の緊急事態宣言下において
大規模な雇用調整とそれに伴う失業増加が
4月の時点である程度回避されてきたのには、
離職者の非労働力化、
大規模な休業の実施、
に加えて歴史的偶然にも裏打ちされたもう一つの理由がある。

それは
従業者(休業者以外の就業者)の
短時間就業への一斉シフト
である。

2020年5月21日に
「2020年1-3月期の労働市場(5)」
として書いたばかりだが、
2019年4-6月期は
過去最も非農林業で週1~34時間就業の雇用者
(以下、短時間雇用者)が増加した
記録的な期間だった。背景としては
令和への改元に伴う超大型連休の影響に加え、
19年4月から施行された働き方改革関連法案の影響が
示唆された。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/21

その上で感染症拡大後の2020年においても
短時間就業へのシフトは続いている。
2019年4月は、先の理由などにより
短時間雇用者は前月に比べて1192万人拡大と
驚異的な増え方を記録した。
一方で、2020年4月においても
短時間雇用者は前月より887万人拡大と
遜色のない増え方をしている。

さらにいえば新年度での短時間雇用の新規採用が
19年4月には少なからず堅調だったのに対し、
厚生労働省「職業安定業務統計」等が示すように、
20年4月は新規の採用と求人に急ブレーキがかかっていた
ことを考えると、にもかかわらず短時間雇用者がここまで
増えていたのは、驚異的ですらある。

そんな短時間雇用への一斉シフトをもたらしたのは、
週35時間以上就業からの移行だろう。
2019年4月でも
週35時間以上の雇用者は前月に比べて
1139万人と大きく減少していたが
今般の2020年4月には
減少幅は1289万人減(対前年同月では198万人減少)
といっそう大きく拡大している。

その結果、従業者全体の4月月末の週平均時間は、
一昨年の37.2時間、昨年の34.0時間をさらに下回り、
33.4時間まで短縮する結果とまでなった。

労働力調査(基本集計)では月末一週間のみならず、
就業者に関する一か月間の就業日数や就業時間の状況
も示している。それらによると、2020年4月の
月間平均就業日数は前年同月に比べて0.8日縮減し、
月間の平均就業時間も同じく5.8時間短くなっている。
正規の職員・従業員に限っても、月間平均就業日数は
0.6日減少し、月間平均就業時間も9.1時間削減された。

緊急事態宣言が出されていた期間に
たまたま大型連休の期間が含まれていたことに加え、
昨年、一昨年来の働き方改革の機運の強まりによって
正社員を含む短時間就業への地ならしが職場で進んでいなければ
ここまでの一斉の短時間就業へのシフトは実現していなかった
かもしれない。

短時間シフトによって、どれだけ企業の人件費負担が
削減され、かつ生産性に影響を与えたか(与えなかったか)は
今後の検証に委ねられることになるが、それでもシフトが
進まなかった場合に比較して、雇用者数そのものの調整圧力を
一時的に軽減させていたのは疑いない
(併せて昨日考えてみた休業増加をもたらした4要因は、
同様に短時間就業増加の背景ともなっている可能性が高い)。

5月1日に書いた
「2020年3月の労働市場(3)」では
短時間シフトへのしわ寄せが
一部の長時間労働へと及んでいるとまでは
全体から見ると言い難いと述べている。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/01

2020年4月の基本集計の結果からも、
たとえば週60時間以上就業していた非農林業雇用者は
前月に比べて132万人、前年同月比でも94万人減少していた。
卸売・小売、製造、建設、道路・貨物運送、
宿泊・飲食、医療・福祉などでも
週60時間以上就業の雇用者数は軒並み減少している。

ただ同時に、多くが休業、短時間就業に移行するなか、
4月もなお203万人の非農林業雇用者が週60時間以上
働いている等、困難な状況ですら長時間労働を担っている
人々が存在する事実も忘れてはならないだろう。

緊急事態宣言が解除された5月に
大規模に実施された短時間への一斉シフトが
どの程度一般就業へと戻るのか、
そのまま続けるのか、
それとも雇用の打ち切りなどにつながるのかは、
非労働力や休業などと並んで、
今後の経済再開の動向を占う重要なポイントである。

2020年4月の労働市場(2)

感染症拡大の第1波が
雇用・就業に与えた影響の
特徴の一つとして
総務省統計局「労働力調査」の
2020年3月の基本集計
および
2020年1-3月期の詳細集計
の時点で
休業者の未曽有の急増をこれまでも指摘してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/04/30
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/17

2020年4月の基本集計からは
休業者の未曽有の急増は
より鮮明なものとなっている
ことが確認できる。

昨日一部の報道でも取り上げられていたが
全国の都道府県が緊急事態宣言下にあった
4月の月末一週間時点の休業者数は
597万人に達した。
それは対前年同月に比べて420万人、
前月からは348万人と、
途轍もない増加となっており、
就業者全体の9.0%が休業状態にあった。

就業者に占める休業者の割合を
休業者率とすれば、
正社員では5.4%(前月2.5%)なのに対し、
非正社員では14.9%(同5.6%)に達し、
なかでもアルバイトは24.1%(同7.5%)と
きわめて高くなっている。

緊急事態宣言前の3月末時点でも
既に休業者は249万人と過去最多となっていたが、
それをさらに大きく倍以上更新した。
3月も対前年同月で31万人増えていたのに加え、
一年間の増加幅は389(=420-31)万人へと
急拡大したことになる。

折れ線グラフにしてみると、
まさに休業の「オーバーシュート(爆発的増加)」とでも
呼べるような状況になっている。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c23.html

あくまで仮想的な試算にすぎないが
もし休業者が休業ではなく全員仕事を失い
失業していたならば、
完全失業率も約11%まで急増し、
米国の約14%と遜色ない水準にまでなっていたとも考えられる。
現在までのところ失業率が2%台を維持しているのも、
休業で仕事をなんとか持ちこたえていることの影響は大きい。

産業別では休業者は
特に宿泊業・飲食サービス業について
前年の10万人から105万人に拡大している。
また医療や福祉の崩壊との関連から
以前より懸念していた医療・福祉の休業も
25万人から50万人に倍増していた。

年齢別の休業者率は、
アルバイトなどの非正規雇用が多い
10代から20代前半で高い他、
65歳以上でも高くなっている。
高齢者では、非正規の割合の高さに加え、
やはり健康面での不安による働き止めが
ここでも影響しているのかもしれない。

では、
あらためてなぜ
休業者はこれほどまでに
急増したのだろうか?

考えられるのは主に4つだろう。

第一に、事業の縮小や業績の悪化などの
見通しが、4月末時点では未だ一時的である
といった短期的なものが主流だったのだろう。
緊急事態宣言が解除されれば、早晩需要も
復活し、その際には一定の人手が必要なため、
それまで休業で凌ごうとしていたことが
考えられる。

第二は、潜在的には人手不足の基調が続いている
ことも予想される。人口減少が続くこともあり、
人手を確保することが今後も慢性的・構造的に
難しいという見通しから、なんとか雇用を維持したい
と考えていることで、休業による待機措置を続けていた
のかもしれない。

第三に、休業補償に関するアナウンス効果も一部
ではあったかもしれない。3月から4月の早い段階で
雇用調整助成金(雇調金)の特例措置による
支給要件の緩和や支給水準の拡大が矢継ぎ早に決定された。
実際の給付には一定の時間を要しているとしても
それでも休業による人件費負担抑制の期待には
少なくともつながっただろう。

第四に、人的資本理論の述べるところの
企業特殊的熟練の影響も考えられる。
訓練を受けた企業で特に高い生産性が発揮される
企業特殊的熟練が広く行われている場合、解雇や離職は
それまで投下した人的資本投資が無に帰してしまうため、
不況に直面しても、休業等の活用により、雇用を維持しよう
する傾向が生じやすい。これまで勤続年数の長い正社員の
雇用が維持されやすかったのは、そのためとも言われている。
そんな企業特殊的熟練には、高生産性部門への移動を阻害する
ことで否定的な意見が近年高まっていた。だが特殊熟練の存在によって
休業を増やし失業を抑えているとすれば、実に皮肉だ。

このうち、どれが主因であったか、
他にも理由があったかは、今後の検証が必要になる。
但し、第一の理由が主因であった場合には、
今後、大きな第2波、第3波が来たとすると、
今回の第1波とは違い、さすがに状況の悪化を
もっと長期的・持続的なものと見込むことになり、
そのぶん休業ではなく雇用の喪失に直結することが
予想される。

それだけ今後、深刻な第2波を回避することは
雇用や就業にとっても喫緊の課題である。

その上で当面の課題は、
この約600万人の休業者のうち、
緊急事態宣言が全国で解除された
5月末の時点で(まさに現在)
どの程度が従業に復帰し、
どの程度が新たに失業し、
どの程度が非労働力化するか、
どの程度が休業のままなのか、
その動向が今後の施策にとって
きわめて重要となる。

それがある程度わかるのは、
次回6月30日の基本集計まで
待たれることになる。

2020年4月の労働市場(1)

本日朝
2020年4月分の
総務省統計局「労働力調査」(基本集計)
ならびに
厚生労働省「職業安定業務統計」
が発表。

前月分の結果
https://genda-radio.com/archives/date/2020/04/28
と比較しながら見てみる。

労働力調査を見ると
3月から4月にかけて
就業者数は107万人減少(季節調整値)。
比較可能な1953年5月以降では
「三八豪雪(さんぱちごうせつ)」
と呼ばれた大豪雪に見舞われた
1963年(昭和38年)1月の113万人減に次ぐ減少幅であり、
リーマンショック時の
2009年2月から3月の52万人就業者減の
ほぼ倍にあたる。
2020年2月から3月が11万人減少だったのと
比較すると一気に就業の底が抜けた状況といえる。

その一方、
完全失業者数は178万人(季節調整値)と
対前月で6万人の増加にとどまっており、
そのために完全失業率も0.1%ポイント増加の
2.6%に収まっている。
解雇、雇用契約の打ち切りを含む非自発的な
理由で離職した完全失業者数は45万人で
前月と変わっていない。その意味では
驚くべきことに、雇い止めによる失業者の増加は
雇用の底が抜けた4月でも表れていない。

なぜか?

就業者の激減と完全失業者の微増を整合的にしているのは
非労働力人口の激増であり、
前月に比べて94万人も拡大した(同じく63年1月以来の増加幅)。
非労働力人口とは15歳以上の無業者のうち
仕事を探していないか、仕事がみつかっても
すぐには就けない人々を指す
(完全失業者は無業であり、仕事を探しており、仕事にすぐつける人。
ちなみにニートは若年の非労働力からなっている)。
ここでも再三指摘している
労働者自身が感染拡大の影響を受けて
労働市場から撤退する「働き止め」が
顕著に表れている。

男女別では男性の非労働力が
27万人増加なのに対し、
女性が68万人とより多くなっており
雇用底割れのしわ寄せと
それに伴う労働市場からの撤退は
女性でより鮮明となっている。

年齢別の非労働力人口(原数値)は
対前年同月に比べて58万人増加したが
そのうち35万人は65歳以上からの増加となっている。
高齢者を中心とした働き止めも
引き続き進んでいる。

職業安定業務統計から
新規求職申込件数(季節調整値)が
3月には前月に比べて6.9%と
大きく減少したことを
これまで述べてきたが
4月も5.5%と引き続き大幅な減少が
続いており、ここからも働き止めが
継続していることがわかる。
その結果、新規求人数が前月より22.9%減った
にもかかわらず、有効求人倍率は前月に比べて
0.07ポイント低下の1.37にとどまった(季節調整値)。

雇用形態別に対前年同月の実数の変化をみると、
正規の職員・従業員が63万人と増加しているのに対し、
非正規の職員・従業員は97万人と大きく減少、
雇用の縮小は非正規に集中している。
うちパートは46万人減、
学生・生徒も多いアルバイトは33万人の減少と大きい。

4月分も詳しくみていく。

握手

握手は
特別な人とだけ。
これからは
そんな時代になる
のかもしれない。

ビジネスの握手も最低限
(握手直後にお互いすぐ消毒とは
いかないだろう)、
知らない人とは気楽に
握手はしないことが
社会的にも推奨される。

信頼できる人だけに
限られるシェイクハンドは
今よりは希少なものになるのだろう。

握手はマナーだけでなく
それ自体微妙な感覚が伴う。
強すぎるのは、焦っていたりとか、
気負いすぎている感じがする。
反対に弱すぎるのは、なんだか
なま生しくて、少し変な気分にもなる。
圧だけでなく、もちろん手触りからも
いろいろなことが伝わるのが
握手だった。

これからは
そのあたりの微妙なさじ加減は
どのように確認し合うのだろう。

そもそも日本ではむかしは
握手などという習慣がなかったとすれば
やはり礼(おじぎ)と伴う視線あたりが
あらたな勝負どころになるのだろうか。

一斉

昨日今日
あたりから
いろいろなことが
一斉に動き出した
実感がある。
周りも慌ただしく
なってきた。

ただそれは正月明けや
夏休み明けなどとは
また違った
あまりこれまで
経験したことのない
独特の感覚だ。

ときが経てば
この2ヵ月弱のことも
あっという間に
過去になるのだろうか。

もしかしたら
こんなにたくさんの子どもが
公園などで遊んだり
走り回っているのを
見るのも
今週でしばらく見納めかな
と思ったりした。