視野

今朝も
テレビを
観ていたら
オリエンタルランドの
加賀見俊夫会長が
マスクをして
インタビューに答えていらした。

加賀見さんには
むかし、とある研究会で
ご一緒し、
たいへんお世話になり、
かつとてもよくしていただいた。

インタビューのなかで
ディズニーリゾートは
「平和産業」であることや
接触が基本であること、
これまでなんども危機にさらされてきた
ことなど、短い時間だったが
印象的な話をたくさんされていた。

その上で今後を語られる内容で
印象的だったのは、
ひとことふたこと
つぶやかれた
「アイコンタクト」
という言葉だった。

ソーシャルディスタンスだとか
物理的なコンタクトはむずかしかったり
距離は多少離れていたとしても、
アイコンタクトはできる。むしろ
離れているからこそ
これからはアイコンタクトがますます
大事になる。そんなお話しだった気がする。

それは舞浜で大切なのではなく、
どこであってもそうなのでないかと
思って、朝から腑に落ちた。

たとえば、スポーツでも、
良いプレーの背後にあるのは、
きまって多くの場合、
アイコンタクトだ。
即興でうまくいくチームには
信頼に裏打ちされたアイコンタクトがある。

以前、中学生の1週間にわたる
地域体験(トライやる・ウィーク)について
神戸で情報収集のようなことをしていたとき、
先生が、体験中の子どもたちが大人から
「目でほめられる」
ことで自信を持ったり、大きく成長すると
言われたのも思い出した。それは緊張を和らげる
アイコンタクトならでは、だろう。

マスクの上からのアイコンタクトは、
これからの新しいつながりの時代の
古くてそして新しい
大切な取り組みなのかもしれない。

オンラインの会議などでも
上手にコミュニケーションしている人たちの間では
アイコンタクトも、
うまくやっているような気がする。

たしかにアイコンタクトには
通常、読み取りなどの集中が必要とされたり、
視線を注ぎ続ける努力なども求められることも多い。

それはそれで
もちろん大切なのだろうが
もう少しゆるくて風通しのよい
アイコンタクトもあっていい。

視線とか視点とかいうが、
点や線は、結構つかれる。
これからの視野は
視面くらいでもいいのではないか。

集中しすぎず周囲を広めに見渡しながら
たまたま目に入ってくる偶然なども大切にしつつ、
そのなかで、なにかいいことがあったら
目でお互い感謝したり、支えあったりする。

アイコンタクトが
物理的に不可能なはずの
ラジオは、そう考えると
どことなくアイコンタクトに
通じる感じがする。
それは、遠からず近からず
ゆるく「投げかける」「受けとめる」
の関係性が、どこかで
似ているからかもしれない。

アイコンタクトって
面白いなと思った。

差別

今朝早く
テレビで
ドキュメンタリーを
何気なく
みていた。

そこでは
過去に
理不尽な差別を
長く受け、
壮絶な人生を
歩まれてきた方が、
そのことに対して
「憎む」や
「恨む」など
の言葉をあえて使うことなく、
しぼり出すようにして
ただ
「悔しい」
と話をされていた。

とてつもない
ことだと思った。

 

2020年5月の労働市場(5)

これまで
2020年5月の
労働市場の動向を
見てきた。

非労働力人口、
休業者、
短時間就業者など、
かつてない激動を示した
4月の状況から、
すこしずつ元への
軌道修正が見られつつあるのが
5月の動きといえる。

そのとき気を付けるべきは
労働市場の動向の底流には
多くの場合、
双方向の流れが広く共存している
ということを忘れないことだろう。

それはどういうことなのか。

総務省統計局「労働力調査」に
2020年4月と5月の両方に調査協力した
回答者の状況からふたたび考えてみる。

そこでは4月には非労働力人口だったのが
働き止めなどを終え5月になって仕事を開始し
就業者となった人々が、98万人存在していた。
一方、逆方向の動きとして、
4月には就業者として働いていたのが
諸般の事情から仕事を断念し非労働力人口になった人々が
76万人も、5月時点では同時に存在していた。

結果だけみると、非労働力から就業者への
差し引き22(=98-76)万人のシフトが生じたわけだが、
(それだけでも十分に大きいのだが)
その背後には色々な状況が交錯しながら、
実にのべ174(=98+76)万人にも及ぶ人々の働く状況の変化が
あったことになる。

同様のことは5月に増加の兆しが強まった
失業者の動向にもあてはまる。
4月から5月にかけて雇い止めの影響なども受けて
就業者から完全失業者へと
3万人ほど移動した結果となっている。
だが実際には、就業者から完全失業者に移行した
人々は24万人に達しており、
反対に失業者から就業者に移行した人々が
21万人いたため、
結果的に差し引き3万人と比較的小さな変化に
とどまっているようにみえただけなのだ。

同じく非労働力人口から職探しを始めて
失業者になった人が24万人いた一方で、
それまで失業状態だったのが働くのを断念して
非労働力となった人々が、
別のところで21万人も存在している。

労働市場では、多くの場合、
一方通行ではなく、背後には双方向の
動きがあることを、状況を解釈する際には
注意しなければならない。一方的な
動きだけだと、決めつけてはいけないのだ。

それは、非正規から正規への移行についても
あてはまる。しばしば非正社員は正社員に
なることはできない、といったような
強い説明や解釈がなされることがある。

しかし2020年4月に非正規の職員・従業員
だった人のうち、5月に正規の職員・従業員
となっていた人は、実のところ、51万人に達している。
一方で正社員から非正社員に移行していた人も
52万人に及んでいたため、差し引きだけで
みると、正規と非正規の構成はほとんど変わって
いないか、若干非正規が増えたように見えてしまうのだ。

実際には、総じてのべ100万人にも及ぶ正規と非正規の
雇用形態の変化をめぐるダイナミズムが
一か月という短い期間でも生じている
のが、労働市場の実際だ。

このようなダイナミズムは、今回さらに
拡大している。就業者数、失業者数、非労働力人口など
のそれぞれの動き(フロー)をみると、その数は
前年の2019年の4月から5月の動きよりも、
おしなべて拡大している。

その意味でも双方向でも激動の
真っ最中にあるのが、
2020年5月の労働市場の特徴といえるだろう。

 

2020年5月の労働市場(4)

感染症拡大後の労働市場の特徴を
表現するとすれば、
3月が感染浸透による変化の「兆候」、
4月が感染爆発に対する緊急の「対応」
とすれば、5月は、これまでの対応の継続と
感染の一時収束を踏まえた緩やかな回復が
「混在」した時期だったと言えそうだ。

このうち5月の状況に関する
性別による違いを確認してみる。

まず4月に急速に進んだ非労働力化については
男女にかかわらず歯止めがみられつつある。
人口に占める労働力人口の割合(労働力人口比率)は、
4月には男性よりも女性のほうが全体的に
低下の度合いが大きかった(対前年同月)。

それが5月には労働力人口比率は、
前年同月より男女ともに低下しているが、
その低下幅は男性が0.4%減であるのに対し、
女性が0.3%減と、ほとんど差がなくなっている。

総務省統計局「労働力調査」の
4月と5月の両方の調査対象者に着目した
結果もある。それによると、
4月に非労働力人口だった人々のうち、
5月に労働力人口に移行していたのは
男性が3.2%、女性は2.9%だった。

このように割合で見ると、男性のほうが
労働力化が若干進んでいるようにみえるが、
これを人口でみると、男性が47万人なのに対し、
女性は75万人まで達しているともいえる。

4月には一時的に就業を断念していたものの、
5月になって働き始めているのは、
男性だけでなく女性にも顕著に観察される。

一方で、4月に休業者だった人々の
5月の移行状況を見ると、
実際に仕事をした従業者への移行が
男性で48.1%だったのに対し、
女性は41.1%にとどまり、
7ポイントもの違いがみられる。

ただ、2019年の4月から5月では
休業者だった女性のうち従業者と
なっていたのは、34.7%とより少なかった。
女性のうち、あくまで4月の休業を一時的な
待機として、5月には早速仕事に戻っていた場合も
今回は少なくない。

だが、学校の再開も多くが現在も部分的なものに
とどまっていることなどから、子どもの世話などを
理由として、仕事への本格復帰が進んでいない状況は、
今も継続しているようだ。

雇用者に占める休業者の割合(雇用者休業率)は、
4月には男女ともに15~24歳の若年層と
65歳以上の高齢層で高かった他、
女性では20代、30代、40代などでも高かった。

5月になると、雇用者休業率は、
性別と年齢を問わず、低下していることが
確認できるが、それでも小さな子どもを抱える
母親を多く含む女性では、その割合は相対的に
今も高い。

なかでも有配偶(既婚)の35~44歳の女性では
4月の労働力人口比率は、前年同月に比べて
35~39歳では2.2%減、40~44歳では2.3%減と
抜きん出て大幅に下落していた。

これが5月になると、40~44歳では0.6%減と
やや持ち直しているものの、35~39歳では
3.5%減と、下落幅は拡大している。
こちらもこれまで再三述べているとおり、
これらの就業を断念せざるを得ない状況にある
女性のなかには、就職氷河期世代が含まれている。

https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/01

今月発売予定の『中央公論』2020年8月号に
寄稿した内容には、次の文章を含めた。

感染症の拡大前までは、既婚女性の正社員化が進むことで、
性別による固定的な役割分業が、氷河期世代を境に
今度こそ終焉へと向かうのが、期待された。
しかしながら、その期待は現在裏切られつつある。
氷河期世代女性の直面する悲劇は、
たんに就業機会の喪失にとどまらない、
今回の状況が引き起こした日本社会の損失でもある。

このような損失をさらに深刻化させないためにも
感染症の第2波の発生を抑える努力を続けるとともに、
ひきこもり支援だけにとどまらない氷河期世代全体への
支援と適正な評価が、今後とも必要とされている。

 

2020年5月の労働市場(3)

2020年4月に労働市場に
起こった歴史的な変化として
非労働力人口の増加、
休業者の増加とならんで、
短時間就業への一斉シフトを
指摘してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/31

このうち
非労働力人口のなかには
徐々に労働力化に向かい始める動きもみられ、
休業者も依然として多いものの
およそ半分弱は仕事に復帰する動きを確認した。

では残った短時間就業の一斉シフトは
その後5月になってどうなっていたのだろうか。

2019年4月には、非農林業従事者者のうち、
月末一週間に1~34時間就業の雇用者(以下、短時間雇用者)は
3月より887万人増と大きく拡大していた。
新年度のパート・アルバイトの採用にも
急ブレーキがかかっていたことを考えると、
短時間雇用者がここまで増えたのは驚異的であった。

このような短時間雇用への一斉シフトをもたらしたのは、
正社員を含む一般時間就業からの移行だった。
非農林業で週35時間以上就業する雇用者の減少幅は、
前月に比べて1289万人、対前年同月でも198万人と、
驚くべき減少を示していた。

それが5月になると、短時間雇用者は前月より823万人減少し、
同時にかつ一般時間就業者は983万人増加している。
まさに短時間就業から一般時間就業への
明確な「より戻し」が生じていたことになる。

4月に生じた短時間シフトの多くは、緊急事態宣言による
休業実施や自粛要請を受けたものと予想されるが
その背景としては、元々大型連休によって就業時間を
短くすることが、事前に組み込まれていたことで
スムーズに実施できた面もあった。

そのため大型連休が終わり、緊急事態宣言も解除されれば、
おのずと通常の労働時間へと戻る人々も多くなったものと
考えられる。

ただし短時間シフトには、一時的な連休の影響だけではなく、
働き方改革の大号令以降続いてきた、短時間で生産性を上げる
ための取り組みの本格実施や加速化も背景として機能していた
可能性がある。だとすれば今回を契機に労働時間の短縮が
定着する動きも一部で広がるかもしれない。

総務省統計局「労働力調査」からは、
月末一週間の就業時間とならんで
一か月の就業日数と就業時間も把握できるが、
就業者全体について、
今年5月の平均月間就業日数は、
昨年同月に比べて1.7日減少し、
4月の0.8日縮減よりも減少幅はさらに拡大している。
同様に平均月間就業時間も
4月の対前年5.8時間減に比べ
5月には16.6時間減と、短縮幅はより大きくなっている。

この労働時間の短縮の継続は
正規の職員・従業員、いわゆる正社員でも顕著にみられる。
正社員では、5月に平均月間就業日数が
対前年同月1.8日減、平均月間就業時間が20.8時間減と、
それぞれ4月の0.6日減、9.1時間減に比べて
削減幅は拡大していることがわかる。

その際問題は、5月以降、就業規則に定められた
通常の就業時間への復帰と並行して、
そのなかでも就業時間を本当に必要な時間だけに
集中することで、結果的に時間あたりの労働生産性が
向上しているかどうかだろう。その状況は今回の
公表結果からは把握することができず、今後の検証に
委ねられることになる。

感染症拡大への対応経験を一つの契機として、
在宅勤務やオンライン利用の業務も
広がりつつあるが、それが生活時間や労働時間の活用見直し
を求めることになって、望むらくは、
働きやすさや働きがいの向上につながることだろう。

一方で、週60時間以上勤務などの長時間労働は、
前年同月よりは少ないものの、こちらも先月よりは
確実に増えつつある。誰かの業務効率化が、
別の誰かへの負担のしわ寄せを前提とする
のであれば、それは本末転倒である。

ただオンラインや在宅勤務などの仕事の個別化は、
それらのしわ寄せの発生を見えにくくすることにも、
同時に注意が必要になる。その調整は、一義的には
管理職である上司と人事担当者の役割であるが、
見えにくい構造があるぶん、働く本人も適宜
必要な声(ボイス)を挙げることも求められる。

新たに望ましい仕事の仕方と
業務の公正かつ適切な配分について
現在はまだその模索の途中過程であり、
過渡期にあるといえるのだろう。