孤立無業と非孤立無業では、
睡眠時間にも違いがあるようです。
非孤立無業の平均睡眠時間は
8.3時間だったのに対して
孤立無業は8.5時間とわずかですが
スネップの方が長くなっていました。
なかでも一人型のスネップほど、
睡眠時間は長くなる傾向がありました。
テレビをよく見ていたり、睡眠時間が
長いなど、スネップの生活は、
ひきこもりについての「イメージ」
に通じる部分が多いかもしれません。
またこれまでひきこもり支援の活動を
している方からは、日本ではひきこもり
のなかにネットに耽溺するネット依存や
ネット中毒は必ずしも多くないのでは
ないかという声をよく聞きましたが、
スネップにも同様の傾向がみられました。
ただし、それらはあくまでひきこもりの
「イメージ」でした。ひきこもりについての
統計調査は必ずしも多くなく、内閣府が
2010年に行った調査では、有効回答者数
3287人のうち、ひきこもり群は59人のみで、
ひきこもりに近いとみなせる人々も131人に
すぎず、詳細な計量分析には限界がありました。
また厚生労働省によるひきこもりガイドライン作成の
もととなった調査でも、20歳から49歳の調査対象者
1660人のうち、ひきこもり経験者は実は19人のみでした。
それに対して、ここでスネップと定義された回答者は
1000件以上、正確には1146件にのぼります。これだけの
調査協力者があると、一定の信頼性を保たれた統計分析
ができるのです。スネップは「イメージ」ではなく「実態」が
明らかにできるのです。
尚、ひきこもり、ニート、スネップの関係については、
地域若者サポートステーションで働いている方から
次のような投稿がありました。孤立と無業との関係に
ついてのご指摘です。
>> かねてからブログを拝見おりまして
>> 「スネップについて、意見があれば」
>> とのことでしたので、
>> 日々困難を抱えた若者と接している現場の感覚が
>> 少しでもお役に立てればと思い、メールをさしあげました。
>>
>> スネップについて直接は申し上げられませんが、下の①~③は、
>> 失業者→NEET(日本の定義)→社会的ひきこもり→引きこもり
>> と「アッという間に」孤立していく心理状態をまとめたものです。
>>
>> 若者当事者たちに「こういう感覚?」と聞くと
>> 「そうそう!こんな感じ!」と言われることがほとんどなので、
>> 科学的な根拠はありませんが、大きく外れてはいないと思います。
>>
>> ①失業者→NEET に陥るときの心境
>> ・例えるなら、就職を求める人たちの長い行列の後ろの方に自分は並んでいる
>> ・その行列は、前の方だけ入れ替わっている様子は感じるが、
>> 少しずつでも自分の順番が前に繰り上がっていく気配はない
>> ・このまま並んでいても希望は見えないし、
>> かと言って他の方法が思いつくわけではない
>> ・しばらく並んでいたが、どう考えても自分の番が来そうにないので断念した
>> →希望を失って就職活動を断念した瞬間にNEET状態と定義される
>>
>> ②NEET→社会的ひきこもり に陥るときの心境
>> ・仕事をしていないと、久しぶりに会った人の
>> 「いま、どうしてるの?」という質問が怖い
>> ・親戚の集まりや同級生の集まりに顔を出せなくなる
>> ・近所の人にもあまり会いたくない
>> →そもそも仕事をしないままで対人関係を保つのはとても難しい
>> →気まずさ、後ろめたさ、引け目から、自ら対人関係を切り、孤立する
>>
>> ③社会的ひきこもり→ひきこもり に陥るときの心境
>> ・一人で時間を「潰せる」場所は、外にはなかなかない
>> ・コンビニ、電気屋、ブックオフなど、そんなに足しげく通えない
>> ・家族にも会いたくないが、出かけるのも辛い
>> →対人接触をしないままで外出しつづけるのはとても「しんどい」
>> →ゲームがしたくて家にいるのではなく、家にいざるを得ないので
>> ゲームやPCで時間を潰している
>>
>> というようなことで、仕事を失うことと、孤立していくことは
>> 非常に近い位置にあると彼らは言います。
>> 仕事をしない状態のままで、人と生き生きと繋がるなんて
>> よっぽど神経が図太くないとできないよ、とも言われます。
>>
>> そもそも対人関係が苦手だから仕事(就職)を失うのか、
>> 仕事を失うと「後ろめたさ」から対人関係まで失うのか、
>> ニワトリと卵のどちらが先かは見極められませんが、
>> いずれにせよ、「失業は完全には防げなくても、孤立は防ぐ」というのを
>> 私たちも重視しています。
>>
>> すみません、とても長くなりましたが
>> ほんの少しでもスネップ理論のご参考になればうれしいです。
>>
ご投稿ありがとうございました。
ご指摘の「→」の節々にスネップの
決して楽しげではない表情が見え隠れ
するような気がします。
2012年5月
SNEP (15)
では、スネップの生活状況として
特徴的なこととは、何なのでしょうか。
社会生活基本調査(調査票A)では、
たずねられた2日間48時間について、
20種類に分類された行動の種類から選び、
15分ごとに記入することになっています。
そのうち、「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に
あてる時間がたずねられています。この
テレビの視聴時間などが、スネップはやはり
明らかに長くなっていました。
平均すると、2日間を通じたテレビの視聴時間などが、
非孤立無業では410.9分なのに対し、
孤立無業(スネップ)では、実に585.1分と
3時間近い差が生まれていました。
孤立無業のなかでも、家族とも一緒にいない
一人型のスネップほど、テレビの視聴時間などが
長くなっていることもわかりました。
また過去一年間に、スポーツ、旅行、ボランティア
などを一切していないスネップほど、テレビの
視聴時間なども長くなっている傾向もみられました。
仕事もしておらず、誰とも会っていない分だけ、
時間はあるスネップ。その時間を、おカネのかから
ないテレビを視ることなどで費やしている、多くの
スネップの実情が想像されます。
SNEP (14)
新しいご意見をいただきました。
その方からお寄せいただいた情報は
次のようなものでした。
最近の介護統計を見ると、介護支援者の増加とともに
男性支援者の割合が年々増加傾向を示していること、
個人的にも、都会から介護支援のために仕事を辞めて
地方に帰ってきている人に何度か会った経験がある。
働きたくとも働けない状況にいる人がいて、それが
SNEPに含まれているのでは、と少し気になります。
ご意見、ありがとうございます。私もスネップの研究を
始めたとき、増加の原因の一つとして要介護の家族を
抱えている人が増え、そのことが外部との接触を難しく
させている可能性があるかもしれないと思っていました。
幸いにも社会生活基本調査には、ふだん家族の介護を
しているかどうかの質問があり、さらに自宅に介護が要する
人がいるかもたずねられています。
ちなみに、ここでいう介護とは、日常生活における入浴、
着替え、トイレ、移動、食事などに手助けをすることをいいます。
介護保険制度で要介護認定を受けていない人に対する介護も
含みますが、一時的に病気などで寝ている場合は含みません。
この項目を使って、自宅に要介護者がいることが、孤立無業に
つながっているかを推定してみました。その結果、SNEP(9)でも
書きましたが、要介護者が自宅にいる無業者ほどスネップに
なりやすいという傾向は、少なくとも統計的には表れてきません
でした。
ただし、この分析は2006年のものであり、高齢化がさらに進んだ
2011年の最新調査を分析すると違いが生まれるかもしれません。
実際、2006年調査でも、スネップのうち、非孤立無業に比べると、
高い確率ではありませんが(統計では有意水準10%といいます)、
自宅に要介護者がいる無業者が、家族型スネップになるという傾向
も若干みられます。
介護とスネップの関係については、今後、ますます大事な問題
になると思います。
SNEP (13)
そもそも調査のあり方として
社会から孤立しているスネップは
調査に協力しているのだろうか
というご意見がありました。
社会生活基本調査の調査方法は
次のように記されています。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2006/2.htm#05e1-8
調査員さんが選ばれた世帯を訪問して
調査票を配り、それを後日に取り集めることに
なっています。
回答は、原則として世帯主または世帯員が
ご自分で記入することになっています。尚、
2011年調査からは一部でインターネットによる
回答も行われるようになりました。
尚、調査に回答するために、調査員さんと
接触している時間は、他人と一緒にいた
時間とはなりません。
「一緒にいた人」については、基本的には
その人とコミュニケーションを取っている状態に
あることが原則です。ただし、例外的に
「一緒にいた人」とはしない場合があります。
その一例として社会生活基本調査の手引きでは
「診察を受けている場合、医師や看護師との
コミュニケーションを図ることができますが、
これは仕事としての行為であることから
「一緒にいた人」とはしません」というのがあります。
この場合、診察を受けている時間は「一人で」と
いうことになります。
同じ様に、調査員さんが仕事の行為として
コミュニケーションをとっている場合は、一緒にいた
とはなりませんし、ハローワークで就職のために
相談員さんと面接している時間も、仕事としての
行為のコミュニケーションと考えられるため、一緒に
いた人とはならず「一人で」に該当すると思われます。
回答拒否の可能性については、ずっとひきこもり
状態などにある人は、そのことを他人に知られたくない
ために、回答を事実上、拒むということもあるかも
しれません。しかし、ここで調べられているのは、
連続した2日間だけであって、ひきこもりのような
半年以上といった長期間にわたるものではありません。
回答を2日間に限定しているのは、生活時間を
24時間について調べるという回答者の負担に
最大限配慮した結果だと思います。その意味で
仮に長期間孤立している人でも、2日間については
それほどの抵抗感もなく、むしろ正確に記述して
いただいているのではないかと思います。
またこれも大切なことですが、社会生活基本調査
のような政府統計は、回答者に指定された場合は
回答の有無を自由に選べるのではなく、回答する
ことが義務として法律で規定されていることも大事な
点です。
しかし、それでもスネップ状態の人たちが
傾向的により強く回答から漏れている可能性が
万一あるとすれば、2006年に107万人と見積もった
孤立無業は、本当はもっと多いということになる
可能性があります。
ご意見がありましたので、回答してみました。
他にもご意見やご質問などありましたら
genda_radio@yahoo.co.jp
までお寄せください。
みなさんと一緒に
孤立無業について考えていければと
思います。
SNEP (12)
スネップはインターネットを
あまり利用していないようでした。
それは電子メールの利用についても
あてはまります。電子メールは
PCによるものだけでなく、
携帯メールによるものも含みます。
2006年時点で20~59歳の独身の
無業者のうち、およそ半分は
電子メールを利用していませんでした。
有業者については、7割以上が
電子メールを使っていたことと
比べると、大きな開きがあります。
ただし、無業者のなかでも、
スネップ以外の非孤立無業では
6割近くが電子メールを利用していました。
35%以上は、週4日以上、誰かと電子メール
のやりとりをしていました。
一方、スネップでは電子メールの利用者は
41%に限られていました。なかでも
家族型は、特に電子メールの利用が
少なくなっていました。
実際に、家族以外との交流が少ないだけでなく
電子メールを利用した交流も少ないというのが
スネップの特徴です。