では、スネップの増加に
歯止めをかけるためには
何が大事になるのでしょうか。
そのキーワードは
「アウトリーチ」だと思います。
アウトリーチは、医療・福祉等の分野などで、
ケアが必要なのにもかかわらず、そのための
場所や施設に通うことができない人々に、
ケアの提供者の方から積極的に出向いて
支援する取り組みを指します。
ひきこもり状態の人たちに、支援者が
自宅まで出張訪問し、本人や家族に向かって
個別の相談や働きかけを行うことも、
アウトリーチの一つです。
スネップが何らかの理由で他者との交流
を持つことができない以上、支援する側から
動き出すことが大事なのです。
現在、厚生労働省では地方自治体と協働で
働くことに悩みを抱えるニートなどの若者の
職業的自立を目指し包括的に支援する事業として
「地域若者サポートステーション事業」に取り組んでいます。
2012年4月時点で、全国115ヶ所にサポートステーションが
設置され、専門的な相談、支援プログラムの提供、
ハローワークへの橋渡しなど、多岐にわたる支援活動を
展開しています。そのなかの活動の一つがアウトリーチです。
全国の65ヶ所で訪問支援が行われている。そこでのアウトリーチ
としては、高校中退者に対する自宅訪問が、学校との連携のもとに、
重点的に行われています。
スネップはニート以上の広がりをもって拡大しつつあり、
尚かつ支援の手が届いていない無業者が多数にのぼることを
意味しています。さらに就業による自立支援が必要とされているのは、
若者だけではありません。今や、中高年層に対してもアウトリーチ
などの支援が不可欠となっているのです。
アウトリーチを含め、人手をかける、手間暇を惜しまない
ことが、スネップの支援には大事なのです。それは
精神科医の斎藤環さんが、ひきこもりやうつ病などへの
対応として、何より「人薬(ひとぐすり)」が大切と
おっしゃっていることと、通じるのではないかと
思っています。
2012年6月
SNEP (20)
このままスネップが増え続けると
どうなるのでしょうか。
仕事をしないということが、社会とのかかわり
を失うという傾向が強まれば、働いている人
とそうでない人との間での分断がますます
大きくなっていきます。
家族によって支えられるしかないスネップは、
家族による庇護を将来失ったとき、生活をすることが
きわめて困難になります。その結果、現在、増加の
著しい生活保護の受給者がさらに増えていくことに
つながり、財政赤字の拡大要因にもなります。
スネップは、明らかに生活保護増加の一因なのです。
また長期的には、就業者数の確保を難しくする
ことになります。人口減少社会が現実のものと
なり、昨年から今年にかけて過去最大の人口
減少が起こりました。人口の減少は、短期的には
需要の減少のために同時に経済の活力を削ぐ
ことになりますが、長期的には働き手の不足に
つながります。
現在、60歳以上の就業者数は着実に増えつつ
ありますが、働き盛りの年齢層ではスネップの
増加もあり、就業者数は伸び悩んでいるのです。
スネップの増加を、個人の選択の問題として
放置することなく、社会全体としての問題として
歯止めをかけていくことが、必要なのです。
SNEP (19)
前回、孤立状態にあることは
仕事に就こうとする活動(求職・学習)や
そもそも働こうという希望を抑制する
ことにつながると述べました。
だとすれば、その理由は何なのでしょうか。
友人や知人と日常的につながりがある
ことは、良い就職先を知っている友人から
仕事の紹介を受けられるという面もある
かもしれません。いわゆる「コネ」もしくは
「人脈」ということになると思うのですが、
いずれにせよ、知り合いからの情報提供が
大事だということになります。
しかし、私は知人や友人とのつながりは、
もっと大事な役割を果たしているのではないか
と思います。それは「気づき」です。
たとえばインターネットを積極的に活用できる
環境にあることは、就職活動をも積極化する
ようです。ただ、その内容を見てみると、いわゆる
情報の検索や収集だけではあまり効果がないように
見受けられます。むしろ大事なのは、友人との電子
メールや携帯メールを通じた具体的な情報交換です。
それは、単に情報提供というだけでなく、自分自身が
どうしていくべきか、何をすればよいかという気づきを
与えてくれるのではないでしょうか。
情報は既にたくさんあります。むしろその膨大な情報から
自分なりの決断をするための後押しをしてくれるのが
友人や知人とのつながりであるように思います。
スネップ、特に家族型のスネップは、家族との結びつき
はあります。それは安心を与えてくれる強い絆であることも
多いでしょう。しかし、そんな強い絆を持つことの多い
家族型の孤立無業ほど、仕事に就くことに積極的で
ないという事実は示唆的です。
むしろ自分と違う世界を知っていたり、経験したりしている
友人や知人とのつながりが、仕事にまつわる気づきや
決断を促してくれる。これまでもたびたび強調してきた
緩やかな絆、すなわちウィークタイズの重要性が
ここでも浮かび上がってくるのです。
震災後、絆の大切さが、多くで語られています。私も
そう思います。ただ、家族との強い絆だけでなく、
もっと広くて緩やかな絆を広げていくことが
希望を生むのだと確信しています、
SNEP (18)
スネップの最大の問題は、
働くことがますます難しく
なっていくことです。
20~59歳の未婚無業者全体では、
54%は仕事につきたいと思い、
実際に仕事を探しています。
非孤立無業になると60%と
さらに多くの方が求職活動を
しているのです。
ところがスネップの場合、ちょうど
半分の50%しか職探しをしていません。
なかでも家族型のスネップは、半分弱の
47%しか、仕事に就こうとして職探しを
していないのです。
そもそもスネップでは、仕事をしたいと
思っていない人が多いのです。
就職希望のない人が、非孤立無業では
17%なのに対し、スネップでは22%であり、
家族型スネップでは実に25%に達している
のです。
SNEP (7)で、働くことを断念しているニートは
かつてであれば経済的に余裕のある家庭から
生まれることが多かったのが、最近ではむしろ
余裕のない家庭が増えてきていると述べました。
このようにニーとには、「貧困問題」が大きく影を
落としていました。
加えて、スネップは、就職活動を断念する傾向が
強く、そもそも仕事に就く希望を失っていることが
多いということは、スネップはニートを生み出すもう
一つの背景となっていることを意味します。つまり
貧困問題とならんで、「孤立問題」がまちがいなく
ニートを生み出しているのです。
求職活動や就業希望以外に、仕事につくための
学習・訓練についても、スネップは明らかに消極的
になっていました。ここでもスネップは、トレーニングの
部分で、ニートと密接に結びついているのです。
孤立化の問題を解決しない限り、働くことを諦めた
無業者の増加に歯止めをかけることは出来ません。
ちなみに求職活動を断念している無業者の特徴
としては、スネップが多いことに加えて、40代、50代
の人が多いことや、高校中退を含む中学卒の人や
在学したことがないという人も多くなっています。
またインターネットを利用していない人や、
自宅に要介護の家族のいる人も求職活動を
していない傾向が強くなっていました。
孤立し、インターネットも利用せず、家族の介護で
たいへんな中高年の人たちは、きわめて仕事に
就くことが困難な状況にあります。
以前に比べて若年雇用対策は、明らかに充実
するようになりました。最近議論されている政府の
新成戦略でも、若年対策は一つの柱となっています。
しかし今や若年対策以外にも、孤立を防ぐための
新しい就業対策が必要とされているのです。
SNEP (17)
どうして、そんなに統計(数字)
にこだわるのですか
という質問がありました。
むかし『仕事のなかの曖昧な不安』
という本を書いた後、読んでくれた
友人から次のようなことを言われました。
「ここで書いてあることは、当たり前の
ことばかりな気がする。自分でも知って
いたことだ。でも、それは自分は漠然と
そう思っていただけで、それが統計に
基づく根拠があるんだとわかって、
なんだかすっきりした。」
この感想は、これまでもらった
感想のなかで、一番うれしいものの
一つになりました。自分のやるべき
ことが、すこし見えた気がしました。
経済の問題でも、仕事の問題でも、
若者の問題でも、統計による裏付け
があるものと、そうでないものがある
ように思います。
裏付けがないものは
一時的には話題になりますが、しばらく
するとまったく顧みられることもなくなる
ことも多いように思います。
ただ、だからといって統計や数字が
すべてだとも思いません。スネップに
しても、明らかにしなければならないことが、
統計調査のなかですべて調べられている
わけではありません。
むしろわからないことだらけです。
だからこそ、統計によってどこまで
明らかにすることができて、どこから
先がわからないかを、すっきりさせることが
大事だと思います。その上でわからない
ことは、統計や数字を超えて、
本人や現場の声に耳を澄ますことが
大事になると思います。
数字は0から9までの、それ自体
味気ないものかもしれませんが、
その背後には、言葉にならない
いろいろなドラマや物語があるように
思っています。