数字

以前に書いた
こともあるが
職場の近くの交差点に
交番がある。
そこには昨日の東京23区の
交通事故による
負傷者数と死亡者数が
毎日貼り出されていて
途中何気なく見ることも多い。

これまで負傷者数は平日だと
だいたい100人弱くらいの記憶があるが
4月以降、出勤の際に
たまに見かけると
そのおよそ半分程度か、
やや上回るくらいだった
ことが多かったように思う。
こと死亡者数にいたっては、
見た限りずっとゼロだった気がする。

平成の時代でよかったことの一つは
交通事故で亡くなる人が格段に
減ったことだ。私も
幼稚園の頃、
車にぶつかって吹っ飛んだことがあり、
しばらく家で寝ていた記憶がある。
事故に遭ってしばらくして意識が戻ったとき
アニメのタイガーマスクに出てくる
ライオンマンのカードをずっと握っていたのを
なんとなくおぼえている。
よほど大事だったのだろう。

考えてみれば
交通事故の状況は
ネットでもわかるかもと思い調べてみた。
警視庁管内で昨日6月4日では
67件の事故に対し、
負傷者70人、死亡者0人だった。
https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/jiken_jiko/hassei/jiko.html

経済活動が再開するにつれて
交通事故もふたたび増えていくのだろう。

今も信号機なしの横断歩道では
歩行者が立っていても、
残念ながら止まってくれない自動車も多い。
それでも緊急事態宣言の頃は
止まってくれる運転手さんが
いくぶん増えたように感じた。

緊急事態宣言の解除で
それも元に戻ってしまうとすれば
少しさびしい気がする。

4月から毎日見ているデータでは
感染症拡大で亡くなった方が
7日間連続で10人を下回っている。

10という数字自体に
特に意味があるわけではない。
それでもどんな数字の背後にも
数々の物語があるんだろうと思う。

 

出勤

いろいろと
事務的な仕事なども
溜まってきたので
今日は一週間ぶりに
出勤することにした。

窓を開けた電車の風が
気持ちいい。
梅雨や真夏に窓は
どうなるのだろうとも思う。

同時に前回よりも
確実に人の移動が
多くなっていることを感じる。

大学は今も原則は
在宅勤務で、
出勤する場合も時間の管理があり、
事前届出することになっている。

どうしても時間が限られるので
前もって何と何をやるべきか
メモをして臨む。

ただ実際には
予想外のことも多々あり、
あっという間に時間は過ぎていき、
もう少しというところで時間切れ。

それでも
できないものは仕方ないさ
また今度でもいいだろうし
と開き直ることも
これからますます大切なのだろう。

さあビール呑も。

産業

ゲンダラヂオを
お聴(?)きいただいた方の
何人から産業別の特徴や対策
などについてご質問をいただく。
そこで今考えているところを
少しお話ししてみる。

産業別の就業動向については既に
新聞など色々な媒体で報道されている通りである。
そこでは需要の落ち込みから
飲食サービス業、宿泊業などで
急速に就業が悪化している他、
生活関連サービス業、娯楽業などでも
厳しさを増しつつあることなどを中心に
指摘されることが多い。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c01.html#c01-8
実際、現状はそのとおりだと思う。

雇用や就業の変動を
マクロ経済学的に考えるとき
変動の起因(ショック)は
「マクロ的ショック(aggregate shock)」
「部門別ショック(sectoral shock)」
「固有的ショック(idiosyncratic shock)」
に分類される。
マクロ的ショックは経済全体に波及するショック、
部門別ショックは、特定の産業、地域、規模などに
集中するショック、固有的ショックはより特定の企業や
事業所に限定的に集中するショックを意味している。

2004年に出した拙著『ジョブ・クリエイション』第2章では
1990年代を通じ、雇用創出・消失に対しては、固有的ショックの
影響が強まっているのを書いたことがある。

一方で、2009年を中心に猛威をふるったリーマンショックでは
雇用の激動は圧倒的にマクロ的ショックによってもたらされていた。
世界的金融不況という金融システムそのものの崩壊の
危険にさらされていた状況は、特定の産業などを超えて
影響を及ぼしていたのである。その分析については
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/05/pdf/004-017.pdf
に書いた。

分析はこれからではあるが、おそらく今後
コロナショックと呼ばれるであろう今回の激動についても、
マクロ的ショックの影響がきわめて大きかったという結論に
なるのではないかと予想している。

今の時点では、雇用の悪化は、真っ先にサービス関連の産業で顕著に
表れているが、これからは他の産業にも少なからず波及する。
春先まではあった国内外からの受注がその後ピタリと止まることで
休業などで凌いできた製造業や建設業などの雇用消失が
徐々に顕在化してくる可能性もある。

そうなると特定の産業だけを見込んだ対策だけでは
明らかに不十分ということになる。
実際、現在の雇調金の支給範囲などを見ても、対策は特定の産業
だけでなく、全方位を想定しており、的確だろうと思う。

ただ、これまで最優先で取り組んできた雇用維持の対策だけでは
限界があるのも、また事実だろう。
感染症の拡大がある程度抑えられたとしても
外国からの旅行客の回復には時間がかかるだろうし、
いわゆる3密の可能性が避けきれない業種などでは、
当面事業の再開が難しい場合も出てくる。

そのため、事業を閉じるのをやむなく決心した事業主やその従業者には、
新たな就業先を支援・あっせんする雇用のマッチング対策が出番となる。
リーマンショック時に比べると、潜在的な求人は少なからず存在
することを考えると、再就職を望む人がマッチングによって希望を
実現することは不可能ではない。

ただ事業を永続的に離れることを望んでおらず、
一定期間は休業した後には、また元の仕事に戻りたいと望む人々も
きっと多いだろう。
それらの人々にはマッチング対策は必ずしも有効ではなく、
1年(場合によっては1年更新可)といった一定期間に限って
臨時の「つなぎ雇用」の機会を創出し、急場を凌ぐことが求められる。
そこで登場するのは、緊急的な雇用創出事業である。

そんな雇用創出事業として、リーマンショックや東日本大震災の際にも
雇用の実績を挙げたのが、雇用創出基金事業だった。
基金事業では一定の基金を都道府県に積み、
そこから臨時採用や緊急訓練などの緊急事業に対して
柔軟的・機動的に事業を実施することが可能となり、
リーマンショック時には55万人の雇用を創出した。

もう一つ、雇用を創出する企業に対して、税制上の優遇措置を実施する
雇用促進税制もある。2010年代に実施され、44万人の雇用を生み出した。
ただ今回は一時的に赤字に転落する企業も多いことを考えると、
より緊急的には基金事業の方が当面は有効かもしれない。

雇用維持対策を大前提として緊急的に進めつつも、それが限界に達する前に
雇用創出対策に踏み込むべきというのは、3月27日の官邸ヒアリングで述べ、
提出資料にも記載している。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/keizaieikyou/07/shiryo_06.pdf
今も考えに基本的に変わりはない。

基金事業については、
一部の政党でも前向きといった
ことを風の噂では聞いたことがあるが、
財政規律を重視する当局の判断や
不正支給のおそれに対する世間の厳しい目
などを懸念し、必ずしも本格的な検討が進んでは
いないようにみえる。

結論的には、産業別の対策はどうか?というご質問には、
特定の産業に対する雇用維持対策では今後限界があり、
産業間の移動を希望する人々へのマッチング対策に加え、
基金事業などによる産業を超えた雇用創出対策の検討を
そろそろ本格的に始めるべきときに来ているのではないか
と思っている。

在学

3月来、
感染症拡大で
仕事に最も直接的な
打撃を受ける人々として、
学校に在学しながら
アルバイト・パートなどで
働く学生・生徒の存在を
述べてきた。

労働力調査(基本集計)では
教育に関する項目別の統計がないため、
在学アルバイトなどへの影響について
追加の情報は残念ながらない。

最新の結果は5月中旬の詳細集計のまま。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/15

5月15日に書いた主な内容を整理すると、

1)過去最多の200万人を超えていた在学中の
15~24歳のパート・アルバイトは、
2020年1-3月期には12万人減少し、
パート・アルバイト全体減少の半分以上を占めた。

2)仕事を失った大部分は大学生もしくは大学院生で、
その数は10万人に達していた。

3)大学卒の非正規(フリーター)よりもアルバイト
大学生のほうがさらに雇用は不安定な可能性が大きい。

など
(次の最新情報である4-6月期の詳細集計の公表は
8月11日と先になる)。

政府や学校などでの対策として、学生・生徒アルバイトの
厳しい状況に対して、生活費の補填や教育費の免除などの
動きは見られつつある。
一方で、学生や生徒を、一人の労働者として
労働の行政や制度によって保護するといった動きは、
遅々として進んでいないようにみえる。

背景には、学校に通っている
児童、生徒、学生は、
すべて教育行政の管轄という原則があるのだろう。
在学生は、労働行政の対象ではないため、
雇用政策としては、迂闊に手が出せないといった、
杓子定規の行政区分の明確化による弊害が
如実に表れているようにみえる。
学校の内部に教育以外の行政が
入っていくことの障壁は、今もなお高い。

中学での職場を主とする地域での体験学習や
高校や大学に在学中のインターンシップ、
卒業後の新規採用に向けた就職ガイダンスなど
在学生の働くことについて
学校が積極的に関与すべき点は多い。

ただ表向きは禁止されているが
実態は見てみぬふりをしているだけの高校生アルバイトや、
正式な雇用契約もなく、いわば雇い手の言いなりで
働き、結果的に深く傷ついている大学生アルバイトは
後を絶たない。学校や教員だけによる対応には、
どうしたって限界がある。

2001年に『仕事のなかの曖昧な不安』を書いたときに
比べれば、若者への雇用対策は拡大に進んだが、
在学生の就業者に関しては、これだけ増えたにも
かかわらず、特段の整備も進んでいない。

学生・生徒のアルバイトにも雇用契約を徹底し、
労働者としての権利を守ることや必要な保護を
行う必要性を2019年に拙著『雇用は契約』などで
述べてきたが、まったく無力だった。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016652/

今回、日々の生活にままならない大学生などを
生活面で緊急支援すると同時に、今や多くの職場で
欠かせないれっきとした働き手としてその権利を
守る気運につながることを祈るばかりである。

2020年4月の労働市場(4)

4月初旬に
現在発売中の『中央公論』(2020年6月号)
の原稿を書いていたときには、
その時点で雇用・就業に関する2月までの統計しか
手元になかったので正直不安だった。
ただ、その後のデータをもとに確かめてみると
それほど大きくは的外れではなかったのではないかと
多少なりとも安堵している。

ありがたいことに、
いくつかご意見などもいただいた。
新聞に掲載された書評等を拝読すると
「状況が長引けば、やはり家庭は母であり妻である
女性が守るのが当然という、固定的な性別役割分業が
復活することも考えられる。」
「雇用形態や性別などで分断された
労働市場の二重構造的状況が強まることは望ましくない。」
といったあたりに特に関心をいただいたようだ。

そこでここでは、性別による違いなどに注目して
総務省統計局「労働力調査」(基本集計)から
4月の労働市場の動向を振り返ってみる。
なお、これまで人数などの絶対数に多くで着目してきたが、
性別による発生頻度や集中度合の違いを把握するため、
以下では基本的に構成するグループに占める「割合」又は「率」
に注目していく。

4月には就業者が大きく減った半面、失業者はそれほど
増えなかったが、背後には非労働力人口の急増があった。
人口に占める労働力人口(=就業者+完全失業者)である
労働力人口比率(原数値)を見ると、
2020年4月には、前年同月に比べて低下傾向にあるが、
その度合いは女性の方が若干大きく、それだけ
非労働力化は女性で進んでいたことになる。そして
女性のなかでも労働力人口比率が低下していたのは、
35~44歳の年齢層だったこともわかる。

さらに35~44歳女性のうち、既婚者(有配偶者)に限ると
労働力人口比率は前年同月に比べて2.3~2.4%ポイントと、
より大きく低下していた。同じ年齢層の女性でも
未婚者の低下は0.2%ポイントだったのと比べて、
その差は大きい。

違いの背景としては、3月以来、子どもが通う学校の
一斉休校が続き、それだけ日ごろの子どもの世話のために
働くことそのものを中断せざるを得なかった母親が
多かったことを4月のデータは語っている。

その他、就業者数の減少を一部で食い止めていたのは
休業者の記録的な増加だったことをこれまで見てきた。
このうち雇用者に占める休業者の割合である
雇用休業者率が、4月時点で抜きん出て高くなっていたのは
男女ともに15~24歳の若年層だった。いうまでもなく
この層の就業者には、非正規雇用者、なかでも在学中の
学生・生徒のアルバイトが数多く含まれている。

それに次いで、男性では「働き止め」が多い65歳以上など
高齢者で雇用休業者率が前年同月より高まっていたが、
女性になると、20代、30代、40代といった比較的年齢の若い層で
その割合が大きく上昇していた。
ここでは女性が、仕事を辞めないまでも、
休業によって、妻として母として家庭を守ることを優先的に
求められていた実態が垣間見られる。

そして、非労働力と休業の割合がともに増加した女性のなかには
35~44歳とその前後からなる、いわゆる「就職氷河期世代」の人々が
ここにも少なからず含まれているのである。

氷河期世代の女性は、学卒後の就職で困難を極め、結婚後も世帯収入が
多くないことから、パートなどの非正規雇用で長年働いてきた場合も多い。
同時に職場で経験を積み、非正規ではあるが基幹的人材として評価され、
子どもも幼少時のときほどは、手間がかからなくなっていた。
同時に人手不足を背景とした優れた人材確保の機運の高まりや、
政府による就職氷河期世代の正社員化などを後押しする政策の本格化もあり、
ずっと苦労しながら頑張ってきた氷河期世代の女性にも、
あと一歩のところまで安定雇用の機会が広く届くところまで来ていた。

だがそれも、今回の感染症拡大によって、不本意ながら長年働いてきた職場を
辞めたり休業する事態にまさに直面しているのが、氷河期世代の特に女性である。
そのことは、あと少しまで迫っていた、正社員登用などのチャンスが
ふたたび遠のいてしまったことを示唆している。
氷河期世代にこれまでも何度となく訪れてきた危機が、さらに深刻なかたちで
特に女性に対して今まさに襲いかかっているのである。

感染症拡大以前、ベテラン女性の正社員化が
進むことで、長く続いてきた性別による固定的な役割分業が、
氷河期世代を境に終焉へと向かうことが期待されていた。
しかしその期待の実現は、当面、またもや追いやられてしまった。
それは就業機会の喪失にとどまららない、今回の事態が
引き起こした日本社会全体の損失である。

最後に、就業に穴が開きながらも、大型連休や働き方改革の影響なども
あって、大崩壊をギリギリのところで食い止めてきた、短時間就業への
一斉シフトの性別による違いも見ておく。

4月にはそれまで通常の就業時間を働いてきた雇用者の多くが、
休業をしないまでも在宅勤務の形態を含む短時間就業に切り替えることで、
緊急事態に対応してきた。そこで非農林業雇用者について、
従業者(就業者のうち休業者以外)に占める
週35時間以上就業していた人々の割合(一般就業時間比率)を求めてみた。

すると、一般就業時間比率は、
女性の場合、3月の51.7%から15.1%ポイント低下し、4月には36.6%に減少した。
一方、男性の場合には、3月の81.2%が4月には58.5%へと、22.7%ポイントと
より大きく減少している。4月は男性正社員もおよそ3人に1人が週35時間未満の
短時間就業となっていた。

働き方改革に応じた労働時間の縮減は、
長時間労働になりがちだった男性にとって大きな課題だった。
そのぶん昨年、一昨年来の改革による実行の必要に迫られてきた
労働時間の短縮には、男性も比較的取り組みやすかったのかもしれない。

ただし家庭の危機を前にして
労働時間の一部短縮には肯定的であったとしても、
職場との関係が一時的でも切れてしまうことを恐れ、
より大規模な休業までには踏み切れないというのは、
長年育児休業の取得が広がらない背景の可能性も含め、
依然として既婚中高年男性雇用者の宿痾なのかもしれない。