● 社会から孤立しているスネップが
働けるようになるのでしょうか。
十分に可能だと思います。スネップの
なかには、人付き合いがあまり得意
ではないという人もいるかもしれません。
けれど、その多くはけっして生まれもって
変えられないものではなく、経験を通じて
変えていくことができるものです。
私の知るかぎり、若者自立支援を的確に
行っている人たちは、その経験づくりが
とても上手なようにみえます。地域や
会社の協力を得ながら、少しずつ人と
交わりながら、働く経験を積み増していく
のです。
この10年くらい「コミュニケーションスキル」
といった言葉をよく聞くようになりました。
就職には不可欠だとも言われています。
ただ、みているとコミュニケーションスキル
を、少し難しく考え過ぎているようにも
思えなくもありません。論理的・説得的に
話をしたりとか、英語を縦横無尽に駆使
できることが、コミュニケーションスキルだ
とは、私は思いません。
むしろ「わからないなりになんとかする」
とか「わからなくてもわかろうとする」こと
などが、大切とされているコミュニケ―ション
スキルのように思います。それは経験を
通じてできるようになるものだと思います。
それに仕事のなかには、周りとのかかわり
が密接なものから、比較的ひとりでもできる
ものまであります。状況に応じて、すこしずつ
人とのかかわりを持っていけばよいように
思います。
正社員の仕事を最初から目指さなくても
いいと思います。あせらず段階を一歩づつ
進んでいけば、必ず未来は開けると
確信しています。
2012年6月
SNEP (35)
● やはりどうして孤立無業が
増えたのかが、気になります。
最初に予想したのは、高齢化に
よる自宅介護の影響でした。
介護を要する必要から働くことが
ままならず、被介護者のみならず
介護をする人も外出すらできにくく
なり、社会的に孤立しているという
ものです。
調べてみると、自宅に要介護者の
いるスネップは、1996年が2.3万人、
2001年が5.7万人、2006年が6.4万人
と、たしかに増加傾向にあります。
スネップ全体に占める割合も
3.8%⇒7.0%⇒6.0%と増えている
のも事実です。
ただ、一方で自宅に要介護者がいる
スネップはそもそもそれほど多くなく、
10年間の45万人スネップ増加のうち、
4.1万人の増加を要介護が占める程度
です。
その意味では、要介護の増加がスネップ
増加の主な要因であるとは、言いにくい
というのが、率直なところです。
ただし、スネップに限らず、自宅に要介護
者がいることは、無業者が求職活動をする
ことの阻害要因であることは、統計的にも
明らかです。
もし介護保険制度が成立していなければ、
要介護が就業困難に与える影響はもっと
大きかったと思いますが、さらに自宅に
介護を抱えている人の就業に対して、どのような
支援が必要かは、スネップとは別に検討が
求められていると思います。
次に増加の背景として考えたのは、長期失業者
の増加の影響でした。一年以上の長期にわたり
失業を続けているうちに、社会とのつながりを失い
働くことを断念する傾向も強まるかもしれません。
ただ一年以上の長期失業者が最も増えたのは
2003年の113万人です。その後は2009年、2010年に
再び急増するまで、長期失業者は減少傾向にあった
のです。
1996年から2001年のスネップ増加には長期失業の
増加が影響しているかもしれませんが、2001年から
2006年の増加については、それではうまく説明が
つかないのです。
だとすれば、何が原因なのか。
スネップになりやすいのは、男性、(相対的)高齢者、
そして非進学者といった傾向があります。ただ、
変化をみてみると、むしろ、女性、20代前半、大学などへの
進学者ほど、無業者に占めるスネップの割合はより
増加しているのです。
以前はスネップになりにくかった人でも
スネップになる人が増えている。
これを私は『孤立無業の一般化』もしくは
『孤立無業の大衆化』と呼びたいと思います。
なぜ孤立無業の一般化が生じているのか、
その原因は今のところ不明です。この点を
解明するのが、今後の重要なテーマの一つ
です。
SNEP (34)
● どうしてスネップの研究を
しようと思ったのでしょうか。
実をいうと、最初からスネップの
研究をしようと思ったのでは
ありません。ある意味では
たまたま、ということになります。
私は、統計を漠然と眺めていたり
するのが好きです。それに何か
気になることがあって、どうなって
いるのかを調べたりするのも好き
です。
学生のときは、図書館に
行って統計書を借りてきてみたり
しました。今は、インターネットで
すぐに調べられるので、本当に
便利です。学生には、今でも図書館
に行くといいよ、といいますが。
あるとき、社会生活基本調査を
ながめていて、生活時間の状況を
調べるなかに「誰と一緒にいたのか」
を調査2日間、48時間についてたずねて
いることを知りました。その瞬間、
「これを使えば、ひきこもり的な生活、
もしくはひきこもり気味の生活をしている
人が、どんな暮らしをしているのかが、
わかるかもしれない」と直感的に
思いました。それが大きなきっかけでした。
その結果、たまたま調査に割り当てられた
連続2日間に、家族以外に誰とも一緒にいる
人がいない20~59歳の未婚の無業者が
100万人以上いることが、はじめてわかったのです。
そのなかには半年以上、ひきこもり生活をしている
人も含まれています。
それに社会生活基本調査は、もともと
余暇などの生活状況を調べるのが中心
のもので、働く実態については、それほど
調査が詳しくありませんでした。それが
2006年調査から、仕事を探しているのか、
そして仕事に就きたいと思っているのか、
という新しい調査項目も加わりました。
求職活動の有無と、就業希望の有無は、
無業者がニート状態にあるかどうかを
判断する最も重要な基準です。そのため
「社会生活基本調査を使えば、ニート
の人たちの生活状況もわかるな、ニート
の背景にはどんな生活があるか
わかるかもしれない」と思いました。
実際スネップの研究を通じて、ニートの背景には
社会からの孤立があるということがはっきり
わかりました。
これまで、自分の研究のなかで、
若者の雇用が厳しいのは中高年の雇用が
既得権として守られているからだということを
厚生労働省「雇用動向調査」から明らかに
しました。
ニートについては総務省「就業構造基本調査」
を使って、経済的に厳しい状況にある家庭の
若者がニートになりやすくなっていることを
発見しました。
学校を卒業した直後に正社員になれなかった
若者が、その後も正社員になりにくく、収入も
伸び悩む傾向が、米国の若者以上に強いという
ことは総務省「労働力調査」を分析することで
知りました。
これらの政府統計は、多くの税金と、調査に協力
してくださった方々、調査を実施するために尽力
された多くの人たちによって、調べることができた
ものです。そのおかげで、研究はすべて可能と
なったことは、忘れてはいけないと思っています。
SNEP (33)
お詫びと訂正があります。
これまでご紹介してきた
孤立無業に関する分析結果は
2006年に実施された社会生活
基本調査の匿名データを用いた
ものでした。
一方で、匿名データは1996年と
2001年の同調査についても利用
可能なため、一部でそれらの年に
関する結果も紹介してきました。
ところが昨日、分析結果を再度
確認してみたところ、96年の結果に
一部計算ミスのあることが判明しました。
そこで、次の点について発言を修正
の上、お詫びしたいと思います。
SNEP (1)のなかにある
「1996年には35万人だったスネップは10年で3倍に増加
していたのです」
を、
「1996年には61万人だったスネップは10年で45万人も増加
していたのです」
とさせていただきます。
またSNEP(2)のなかにある
「そこで社会生活基本調査を使って明らかになったのが、
20代から50代までの働き盛りの無業者のうち、100万人以上が
スネップであることでした。今や無業者の57%がスネップです。
1996年には29 %にすぎなかったことと比べると、驚くべき
増加です。」
を、
「そこで社会生活基本調査を使って明らかになったのが、
20代から50代までの働き盛りの無業者のうち、100万人以上が
スネップであることでした。今や無業者の57%がスネップです。
1996年には50 %、2001年も48%だったことと比べると、
増加傾向がみられます。」
に修正します。
言い訳ではありませんが、データを用いた分析では
どれだけ慎重にデータを取り扱い、分析結果を何度も
確認したつもりでも、それでも後で誤りがみつかる場合
があります。
その場合には、すみやかに誤りを認め、修正することが
何より大事です。その他にまた修正すべき点がみつかれば、
即座にご連絡させていただきます。
尚、右にある論文についても速やかに改訂稿に差し替える
予定ですので、ご容赦ください。
SNEP (32)
今日もお便りを
ご紹介します。
○
SNEPについての議論、
社内でも関心が高まっています。
支援者の声を・・・とブログでも
先生が呼びかけておられましたので、
何かお役に立てることがあればと思っています。
それとは別に、私的な好奇心からの発言ですが、
社会的孤立はジェンダー係数との関連が深いのは、
実感するところでもあり、今回の調査結果とも一致
しているなぁと思いました。
特に女性はインフォーマルな人との関わり
(「ランチ」「おしゃべり」「一緒に買い物」「一緒に観劇」等)
が色々あります。
会社縁がなくなった後の男性が「濡れ落ち葉」になり、
妻に先立たれると「男やもめにうじがわく」になる。
おじさんたちもそんな現状なら、
会社縁、家族縁がないSNEPたちもそうなるのは
必然です。
読んでいて、うちの父や夫から「仕事」をひいたら、
似たようなものだ・・・という感想を抱きました。
公的な調査なので、もちろん政策提言をされておられますが、
その現状を打破するものは、公的な制度でなく、
インフォーマルな関係の活性化では?と思います。
そこで、調査項目として気になったのですが、
「飲み会」「ランチ」「お茶」は調査項目として
どこに入りますでしょうか?
焦点を「社交」としたときに、大切な係数かな?
と思い質問をさせていただきました。
○
ご質問ありがとうございました。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2006/pdf/choa.pdf
に調査票がありますが、その6頁目からが
24時間の生活時間に関する調査項目になります。
そこでは20種類の項目から選択して回答することになります。
ご質問の「飲み会」は13番目の「交際・つきあい」に入ります。
「ランチ」は3番目の「食事」になります。「お茶」は13番目の
「休養・くつろぎ」に含まれます。
統計分析によると、スネップ、特に家族型のスネップは
「休養・くつろぎ」の時間が、非孤立無業に比べると
長くなる傾向がみられます。
一方、いただいたご質問をきっかけに
「食事」時間の違いを調べてみました。
すると、こちらでは一人型のスネップが
食事時間がやや短くなる傾向が統計的にも
みられました。
一人で食事をすると、誰かと一緒に会話をする
こともありませんから、それだけ食事の時間が
短いか、もしかしたら食事を抜きにすることも
他に比べて多いのかもしれません。
私は個人的には、一人で呑むのは好きなのですが
(自称、ひとり呑み友の会の会長です)
それでも、一人呑みばかりというのは、少し
味気ないかもしれないですね。
ご 質問のおかげで、新しい発見がありました。
インフォーマルな関係の活性化は、その通りですね。
ニートのことを調べていたとき、大事なのは
雑談をするチカラだと
誰かに教わったことを思い出しました。
ありがとうございました。